科学の新発見は誰も思いつかなかった発想から生まれることがある。医学と宇宙化学という異質の分野の研究が出合い、悪性中皮腫患者の肺組織に高濃度の放射性物質・ラジウムが蓄積することを明らかにした岡山大グループの研究もそうだ。
アスベスト(石綿)繊維が原因とされる中皮腫の発症メカニズムは分かっていない。これまで活性酸素の関与や免疫力の低下などが考えられてきたが、詳細は不明のままだ。
岡山大グループは、アスベスト繊維にタンパク質が付着してできる「アスベスト小体」に着目。隕石(いんせき)や鉱物に含まれる微量元素を調べる機器で分析し、タンパク質中の水酸化鉄から海水中の100万〜1000万倍の高濃度ラジウムを検出した。
体内の正常細胞が長年にわたって「内部被ばく」することでDNAが損傷し、がん細胞に変異する、というのが研究グループの見立てだ。暴露から約40年という中皮腫の潜伏期間の長さもこれで説明できる。
さらにアスベスト繊維のないタンパク質小体からも高濃度ラジウムを検出した。これは長期の喫煙や粉じんなども発症につながる可能性を示唆している。
従来の説を根底から覆す画期的な研究といえよう。中皮腫ばかりでなく肺がん全体の発症メカニズムを解明するうえでも注目される。治療法の確立へも夢がふくらむ。
ただし、現段階では「仮説」の範囲内だ。今後、化学、疫学、臨床的な実験などを重ね、実証していかなければならない。
国内での中皮腫患者発生のピークは2020年からの10年間で、患者数は5万とも10万人とも推定される。社会的にも大きな脅威だ。研究チームはさらに研究範囲を縦横に広げ、全容解明に挑んでもらいたい。