議論や討論、説明や説得が仕事である。だから政治家は「言葉のプロ」であるべきだろう▼だが、日本のセンセイ方に、そういう印象は薄い。わけても修辞上のユーモアや機知が不足している。多くは「自分の言葉」で語らないためだが、書かれた文章を読むにしても、もう少し「聞かせる」工夫ができないものか。常々そう思っていた▼しかし、民主党が発表したマニフェスト(政権公約)に対する閣僚たちの寸評を聞いて少々認識を改めた。「選挙対策用のフライフィッシング(西洋式疑似餌釣り)でしかない」とは与謝野財務相。甘利行革担当相は「閉店セールみたいなことを続ければ、日本も閉店になる」…▼政治の言葉とは、敵への“辛口”となると、俄然(がぜん)、生き生きするものなのか、なかなかどうして気が利いている。自民党の政権公約発表はまだ。その時、民主党がどんな気の利いた“辛口”を浴びせられるか。それも楽しみである▼ただ政治の言葉の“甘口”には注意したい。閣僚の弁は、要は民主党公約の「ばらまき」批判なわけだが、その点、自民党のそれもさほど遜色(そんしょく)ないものになる気がする。得票の「利」のため♪こっちの水は甘いぞと、双方が有権者を誘うだろう▼その時、有権者までが目先の「利」に惑えば、道を過つ。『孟子』には<上下交々(こもごも)利を征(と)れば国危うし>と。冷静に耳をすましたい。