きのう、どこかでたばこの自動販売機に例の成人識別カード「タスポ」をかざした、あなた。自分が一体何をしたか理解しているだろうか▼ただ単に、たばこを買っただけ? いや、それがそうでもない。あなたは、名前も住所も生年月日も込みで、自分がその時間、その場所にいた、ということを記録したのである▼しかも、そうした、特定の個人が利用した日時や場所などの履歴情報が、カード発行団体から検察当局に提供されていたのだそうだ。頻繁に使われる自販機の位置から罰金未納者の所在地特定につながったケースもあるとか。捜査には役立つのだろう▼だが、そんな情報が蓄積されていると、どれほどの人が承知していただろう。団体は任意提出に応じたことも「会員規約で同意を得ている」というが、導入時のあの騒動の中で、申請者にきちんと説明されていたとは思えない▼もっとも、やはり規約にあるのか、携帯電話やクレジットカードの会社も案外あっさり利用履歴を当局に提供するようだ。即(すなわ)ち、お上は必要とあらば、あなたのような特定の個人が、どこへ行き、何を買い、誰と話したかなんてことの大方は簡単に把握できる仕掛け。ちょっと怖い気がする▼えっ、自分には後ろ暗いことはないから無関係? なるほど。でも、誰が関係し誰が無関係かを決めるのは常に権力で、個人の側ではない。