政府が経済財政白書を出した。世界的な経済危機の下、政府が果たす役割の重要さが見直されているが、白書は安易な政府の肥大化に疑問を呈している。政府部内の路線論争を垣間見るようだ。
「経済財政白書」は、政府の経済財政政策に関する公式総括文書と位置付けられている。内閣府がまとめているが、財務省など事前に各省庁に回覧され手が入っている。したがって、政府が実施してきた経済財政政策について、真正面から批判する文言が残ることは普通、起きない。
それでも、今回の白書には興味深い記述がいくつかある。一章から三章まで読み通した後、最後に残った「むすび」の部分だ。
「これからは政府がもっと前面に出ないといけない」という主張に対して「国内の特定産業への支援、新産業育成の政策なども貿易上の不当な競争力強化につながりかねないことに注意が必要」と疑問を呈している。
続けて「こうした支援が長期化した場合、企業の非効率な体質の温存などを通じて成長力をそぐ可能性もある」と指摘した。
これは経済産業省が展開してきた最近の産業政策に対する批判と読める。経産省は経済危機への対応を大義名分にして、不振の電機や航空輸送など特定産業を支援し、新産業育成を狙った政府版ベンチャー企業である産業革新機構の創設に動いた。
どんな企業や産業が国全体の生産性向上に寄与するのか、もともと政府に万能の予知能力があるわけではない。だから、政府が保護に動くときは、市場メカニズムと折り合うように民間の知恵を生かす制度設計が求められる。
だが、経営責任を問わないなど、支援決定手続きで慎重な配慮があったようには見えない。
雇用保護や格差是正についても「景気回復が最大の格差対策」とし「雇用保護規制の厳しい国ほど平均失業期間が長くなる傾向が示唆された」と手厚い保護策の副作用に言及している。
雇用維持を厳しく求めれば、企業は新規雇用をためらうようになるので、新卒者など若者にしわ寄せがいく。そんな悪循環は欧州各国で観察された。
経済危機の中、改革路線の巻き戻しが続いているが、安直な政府頼みでは日本経済の底力を取り戻せない。潜在的な民間活力を発揮させる枠組み作りが不可欠だ。
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