HTTP/1.1 200 OK Date: Sun, 26 Jul 2009 22:18:36 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:週のはじめに考える 増税が景気浮揚の逆説:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

週のはじめに考える 増税が景気浮揚の逆説

2009年7月26日

 外需依存型経済の破綻(はたん)で混迷深き日本。暗いトンネルで耳を傾けたいのが「増税こそ景気浮揚」の逆説的経済政策。真理は時に逆説のなかに潜みます。

 もちろん奇を衒(てら)っているのではありません。増税が景気浮揚との経済政策を説くのは慶応大商学部の権丈善一教授。それによる税収を医療・介護などの社会保障分野に投入する。この積極的社会保障策での内需主導型経済への転換こそが経済を成長させ、日本を救う道だというのです。

 権丈教授は経済政策・社会保障論を専門とする気鋭の若手経済学者。二〇〇七年、福田康夫内閣が組織した社会保障国民会議で、議論を活発化させた中心メンバーとして脚光を浴びました。

◆切り札は社会保障重視

 ことに税方式への移行か現行の保険方式かが争点となった年金論争では「保険料未納による年金の破綻など起こりようがない」とのデータやシミュレーションを提出させたり、「税は年金より医療・介護、少子化対策に回すべきだ」との見解を示して、その後の年金論争の行方に大きな影響を与えたとされます。 

 権丈教授の社会保障重視政策がなぜ日本経済再生の切り札となり社会救済策ともなりうるのか。著作の「再分配政策の政治経済学」(慶応義塾大学出版会)シリーズや経済誌での発言をたどると次のようになります。

 社会保障は、市場の貢献原則に基づいて分配された所得を、必要原則に基づいて修正する再配分制度−というのが権丈教授の社会保障の定義。租税や社会保険の徴収を通じて、高所得者から低所得者への所得再配分が行われます。

 医療・介護、保育・教育には、所得の多少に関係なくニーズが生まれ、社会のだれもが必要に応じて利用できるサービスであるべきだとし、社会保障の拡充とは、この基礎的消費を社会化し、有効需要を全国へと分配する経済政策手段であるとしています。

◆日本は低負担・低福祉

 政府財政の社会保障の新規分野への投入は、需要と雇用を創出するばかりではありません。生活と老後不安からの解放が千四百兆円の眠れる個人貯蓄の消費となって始まります。外需頼みだった経済は内需依存型へと体質改善がはかられ、着実で持続可能な経済成長となっていくはずというのです。

 社会保障の需要や消費に都市と地方の区別はなく、平等重視の互助・共助の社会があります。貧困や都市と地方との格差解消にもつながっていくはずです。

 経済界は従業員と折半する年金、医療・介護、雇用などの保険料負担を「コスト増」「経済競争のマイナス要因」として、負担に抵抗姿勢を示します。社会保障は内需や雇用で長期的には経済と企業を支えます。社会保障の切り捨てが自らの首を絞めることを忘れるべきではないでしょう。

 昨年九月のリーマン・ショック以降の世界同時不況は、貧困、格差問題を一段と顕在化させ、雇用や生活に陰りを帯びさせています。政権選択とともに「生活」は今回衆院選の大きなテーマ。権丈教授の積極的社会保障政策は光明を与えますが、財源問題は何といっても超難問です。

 日本の租税社会保障負担のGDP(国内総生産)比は〇六年で27・9%で、50%を超えるスウェーデンには遠く及ばず、OECD三十カ国中の最低クラス。下には韓国、トルコ、メキシコだけで、現在は「低福祉・低負担」の国家。これを「中負担・中福祉」の国にするのが教授の当面の使命としているところです。

 社会保障は人権や施しではなく経済政策。中負担・中福祉の国になれば、社会保障は充実し、人々の生活は必ず楽になる。各個人の自己責任で将来のリスクに備えるより、国民が助け合って生活リスクに備えた方が真の安心が確保できる−権丈教授が増税の経済政策を提唱し、自信をもって負担増を説く理由です。

 経済学が想定する人間は利己的な合理主義者。しかし、日本人が経済学が考えるほど利己的とも合理主義の愚か者とも思えません。社会保障が負担への見返りがはっきりみえるシステムであり、ハンディキャップのある人々への所得再配分政策であることが理解できれば、負担増を厭(いと)わないという国民が多数を占める可能性は十分あると思えるのです。

◆負担増の是非論議の時

 日本の少子高齢化は世界に前例のないスピードです。厚生労働省の試算では、〇九年に九八・七兆円の社会保障給付額は、一一年に百五兆円、二五年には百四十一兆円に膨れます。政治家も国民も財源論議を避け続けるわけにはいきません。どんな社会を選択するかを含めて一人ひとりの決断が迫られています。

 

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