新型インフルエンザの国内感染者が急増し累計で5千例を超えた。
感染拡大は止まらず、だれがかかってもおかしくない。感染を疑ったら抗ウイルス薬の処方を受けるなど自己防衛を心がけるのが第一だ。4月以降の流行で得た教訓をもとに、秋以降の本格的な流行期に向け政府が準備しておく課題も多い。
新型インフルエンザへの警戒感は大きく変化した。国内発生初期には一部の医療機関が発熱患者の診療を拒むなど過剰な反応があった。症状が季節性インフルエンザ並みにとどまることが多いとわかってくると、警戒感は急速に薄れ「大騒ぎをしたが、たいしたことはなかった」と考える人が今は多いに違いない。
多くの場合、確かに症状は軽く済む。が、甘くみてはいけない。
新型のウイルスの性状には季節性と違う面がある。感染が終息に向かうとみられた夏にも拡大を続けている。感染の広がりとともに症状が重くなる例が出てくる。発熱後に意識障害に陥るインフルエンザ脳症の患者も報告され始めた。
海外では健康な若者が感染し重症化する例もある。重症例では、季節性のウイルスが増殖しない肺の中でも新型は増え、重い肺炎を引き起こす。病気知らずのティーンエージャーが感染し、対応を誤ると亡くなる危険がある。
4月まで国内には、感染すると非常に症状が重くなる高病原性鳥インフルエンザの流行を想定した対策しかなかった。政府は新型の症状が比較的軽いとわかってもすぐには対策を見直さず、実情に合わせて緩和したのは患者発生で混乱を生じた自治体の要請を受けてからだ。
世界保健機関(WHO)も感染の地域的な広がりを主な根拠に警戒レベルを次々と引き上げた。
新型ウイルスの危険度についてリスク評価が十分でないまま状況に引きずられ、的確な対策やメッセージを打ち出せなかった。それが結果として空騒ぎ感を強めた。大流行に対処する医療提供体制の準備不足もわかった。
秋以降は複数のシナリオを想定しうる。今のウイルスの感染拡大が続くかもしれず病原性を強めたウイルス第2波の上陸もありうる。高病原性鳥インフルエンザが流行する危険も消えていない。鳥インフルの出現となれば厳格な対応が必要だ。
新型用のワクチンの量的確保や接種方針すら未確定だ。政府はシナリオに応じたリスク評価と対策を早く示し、医療機関や国民が備える時間をつくる必要がある。