タイで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)閣僚会議は、北朝鮮核問題などを集中討議した。6カ国協議の参加国が顔をそろえたが、北朝鮮はあらためて協議への復帰を拒否、事態打開はならなかった。
ARFはアジア唯一の安全保障対話の枠組みとして1994年に設立された。北朝鮮は2000年から参加し、北朝鮮と国際社会との接点としての役割を果たしてきた。今回は北朝鮮へ直接メッセージを伝える数少ない機会であり、多くの参加国が北朝鮮の核開発に対して懸念を伝えたが、対立したままで終わったのは残念だ。
討議では、北朝鮮側が「核実験、ミサイル実験は米国による核の脅威のせいだ」と述べ、核の保有を正当化。「現在の朝鮮半島の危機の根源は米国の根深い敵視政策にある」と米国を強く非難した。国連安全保障理事会の制裁も「気にも留めない」と一蹴(いっしゅう)する強硬ぶりだった。
一方、米国のクリントン国務長官は北朝鮮の6カ国協議復帰拒否に対し「米国だけでなく地域に困難をもたらす」と非難し「北朝鮮に、もはや友人はいない」と述べた。友好関係にあるミャンマー軍事政権が、国連安保理の北朝鮮制裁決議を履行すると表明したことなどを指している。北朝鮮の孤立化は一層深まったといえよう。
6カ国協議の議長国である中国はさまざまなルートで北朝鮮の説得に乗り出しているが、北朝鮮の根深い対米警戒感を突き崩すことができないままだ。日本政府も北朝鮮代表団側からタイでの接触を拒否され、衆院解散・総選挙で外交上の動きは事実上ストップの状態だ。
クリントン長官は現地入りすると「完全かつ不可逆的な非核化だけが北朝鮮の取り得る道だ」と訴え、北朝鮮が核放棄に応じれば米国などが「関係正常化も含めた報奨や機会を提示して前進する」と提案した。「行動対行動」の原則で段階的な非核化を目指すのでなく、非核化と見返り措置をパッケージとして包括的に解決する方法だ。
米国はブッシュ政権時代に核問題をめぐる6カ国協議の過程で米国や日本との関係正常化を提案しているが、オバマ政権の高官が正常化について踏み込んだ発言をしたのは初めてだ。
「包括的アプローチ」が北朝鮮を動かすカードとならなかったのは、具体性に乏しかったことが原因とみられる。交渉を受け入れさせるためには具体策を早急にまとめる必要がある。