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天声人語

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2009年7月26日(日)付

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 ドクダミは名前の響きで損をしている、と梅雨入り前の小欄に書いたら、名の由来などについていくつかの便りをいただいた。拝読すると、あの小さな白十字の花は意外にファンが多いようである▼思えば「雑草」とひとくくりにされる草の花には、素朴で可憐(かれん)なものが結構ある。そして「雑草という草はない」と言われるように、どの一本も名前を持つ。ドクダミなど序の口の酷な名もある。夏に茂るヘクソカズラはその筆頭だろう▼漢字で書けば「屁糞蔓」。葉をむしると悪臭がするからだが、白くて内側が赤い花は愛らしい。オオイヌノフグリもかわいそうだ。青い花は楚々(そそ)と澄まし顔なのに、実の形から「犬の股間の袋」と相なった。花の精がいるなら、人の無粋にご立腹かもしれない▼夏の暦は進んで、土のあるところ、様々な雑草の威勢がいい。借りているわが畑では、抜いてもすぐに伸びて作物を脅かす。かつて農家は「草に攻められる」と夏を呪ったそうだ。汗だくの苦労に多少なりとも思いがおよぶ▼だが、嫌われ者の雑草に温かい目を向けた人も多い。草々を「地に潜んでいる生命の眼」と呼んだのは明治生まれの文人、薄田泣菫(すすきだ・きゅうきん)だった。草に現れた命ほど、謙虚で、素朴で、辛抱強いものはないと親しみを寄せた▼〈つかの間に夏草胸を没しけり〉横光利一。繁茂することのみに徹し、伸び放題に丈をなした様がまぶたに浮かぶ。人が手塩にかけた花は美しい。されど夏。勝手に青い草々もまた、自然の生命力に満ちあふれた、美しい光景であるのに違いない。

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