豪雨により山口県内で土石流などが相次ぎ、多数の死者が出た災害は、ひとごとではない。予知の難しい土砂災害では犠牲を生まないよう、速やかに避難する仕組みを築いておくのが必要だ。
梅雨前線による豪雨と被害は山口、鳥取県に広がった。際立つのは、山口県防府市の特別養護老人ホームが土石流に襲われ、多くの犠牲者を出したことである。
梅雨末期はしばしば、豪雨に襲われる。危険地域では、それまでの降雨でゆるんでいた地盤が一気に崩れ、土石流、地滑り、がけ崩れの土砂災害が起きる。今回も、まったく同じ経過をたどった。
老人ホームで暮らす高齢者が犠牲になったのは、災害時には弱者にしわ寄せが行くわが国社会のあり方を象徴している。
国土交通省によると、日本では年平均千件以上の土砂災害が起きる。発生の恐れがある土砂災害警戒区域は十三万七千カ所以上、著しい恐れのある同特別警戒区域は五万七千カ所以上もある。
すべてに防災工事を実施するのは不可能だ。居住者が多く、費用対効果が大きいところを優先するのが当然であろう。
だがそれよりもまず、災害の恐れがある場合、住民を安全な避難所へ誘導する態勢を、日ごろから確立しておくことが重要だ。
その前提として、どこが危険な地域で、安全な避難所とそこへ至る経路を明示した土砂災害ハザードマップを作成、住民に周知しておく必要がある。対象となる千六百六十一市町村のうち公表済みは八百八十八市町村。防府市は古いマップの情報を更新しておらず、公表済みに含まれない。
専門家の間には、いまだに市町村長が空振りを恐れ、なかなか土砂災害の避難勧告をしないとの批判が強い。わずかの予兆を別にすれば、土石流などは発生の寸前までわからない。しかも発生した時はもう手遅れだ。
防府市が住民に避難勧告を出したのは、災害発生後だった。未経験の降雨で判断に迷いがあったのか。土壌が多量の水分を含めば、土砂災害につながる。二十一日午前の同市の観測史上最大の時間雨量七〇・五ミリという異常降雨に驚き、避難勧告をしていれば、救えたのではないか。
高齢化が進むにつれお年寄りを災害時、安全に避難誘導する必要がますます高まる。自治体のみでなく、地域の住民全体が「共助」できる仕組みを築きたい。
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