「階級社会」らしい物言いといえば物言いである。英国初の黒人女性下院議員ダイアン・アボットさんの言葉▼「下院議員とは、すべての労働者階級の親たちが子に就いてほしいと望む類(たぐい)の職業である。即(すなわ)ち、きれいで、屋内の仕事で、重い物を持ち上げたりしなくて済む」。日本でいえば、衆院議員に当たろうか。きのう、その衆院が解散された▼総選挙の公示はまだ先だが、事実上の選挙戦突入である。出馬予定者を待つのは、議員のそれとは正反対と言ってもいいかもしれない厳しい仕事。汗まみれ、泥まみれになって、屋外で声をからし、民意という大変重いものを持ち上げなければならない▼もっとも、“失業”が決まった瞬間、議員の多くは議場で「万歳っ!」。のみならず、上げ潮の民主党はともかく、逆風がいわれる自民党の議員にさえ高揚したような笑顔が目立った。何のかんの言って、やはり議員とは、選挙が好きな種族なのだろうか▼ところで、西洋では、キツネの通り道に置いてにおいを消し、猟犬の嗅覚(きゅうかく)を鍛えるのに燻製(くんせい)ニシンを使うのだそうだ。だから、その英語(レッド・ヘリング)には、根本の問題から目をそらさせるもの、の意がある▼総選挙実施までなお四十日もある。道のりが長いだけに、まだまだ、有権者向けの“燻製ニシン”が仕掛けられぬとも限らない。よくよく鼻を利かせたい。