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東京駅での目撃証言が推理の鍵になるのは、松本清張の代表作「点と線」だ。多くの列車が出入りするため、13番線ホームから15番線を見通せるのは一日で夕刻の4分間のみ。名高い時刻表のトリックである▼4分とは言わない、雲よ1分だけでも切れてくれ。そんな叫びを引き連れて、国内で46年ぶりの皆既日食が南海の島々を駆け抜けた。真昼に忍び込んだ「短い夜」を大勢が体感し、はしゃぐ子どもらの目撃談は何代も語り継がれることだろう▼しかし、最長6分半の闇が待たれたトカラ列島悪石島(あくせきじま)は無情の土砂降り、434年ぶりの上海も雨。真っ暗にはなったが、ダイヤモンドリングやコロナの見せ場は厚い雲に阻まれ、見物ではなく観測に赴いた通たちを泣かせた▼その日その時、太陽と月と地球の「点と線」は確かに奇跡を演じてみせた。他方、雲は時刻表のない列車のごとし。雲なりの理屈で広がり、天体ショーや人の都合にお構いなく空を覆った▼気まぐれな停滞前線は、落胆どころか悲劇も呼ぶ。山口県の豪雨は死者・不明17人の惨事となった。7時間に1カ月分が降った防府市では、土石流が老人施設を襲った。ひとつながりの天気図が、ある所で歓声を、別の地で嗚咽(おえつ)をもたらす▼きょうは大暑。満ちる夏を、芥川龍之介は〈兎(うさぎ)も片耳垂るる大暑かな〉と詠んだ。すべてがだらりとする酷暑の候に、不意の大雨が見舞う。一部で早々に明けた梅雨も、全国的には長っ尻らしい。ほとんど何ごともなく終わった東京の曇天を仰ぎつつ、自然の御しがたさを思う。