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衆院解散を受け、各政党が総選挙で有権者に問うマニフェスト、政権公約づくりが大詰めを迎えている。
「公約」を辞書で引くと「守られないもののたとえ」とある。そんな笑い話をどこかで聞いた人も多かろう。
当たり前のように自民党政権が続いた時代の公約は、さほどの重要性はなかったとも言えるかもしれない。結局は「任せてくれ。悪いようにはしない」と言うに等しい空疎な公約がまかり通った。
それではいけない、と民主党が音頭をとって、03年の総選挙から国政選挙に導入したのがマニフェストだ。
政策のビジョンと数値目標、期限、財源、行程表をセットにし、4年間の任期中に何を実行するかの青写真を明確に示す。いわば有権者と「契約書」を交わそうという試みである。
そこで何より大事なのは、政策の優先順位をきちんと示すことだ。
国家の予算はゼロサムゲームだ。何か目玉の新政策を掲げるなら、別のどこかを削らねばならない。税収は増えず、借金は膨らむばかりという財政の現状を考えれば、そこをどれだけ具体的に、厳密に語れるかが、マニフェストの説得力のかぎを握る。
その意味で、自民党のこれまでの公約は失格である。05年総選挙の公約は郵政民営化への熱意は分かるが、ほかの課題は119項目をただ並べただけだった。07年参院選の公約も、155項目を強弱なく並べただけだ。
一方、民主党は07年参院選の公約で子ども手当の創設など「三つの約束」を前面に出し、優先順位を明確にしてみせた。ただ、問題は財源で、「行政のムダをなくす」というだけではあまりに物足りなかった。
今回のマニフェストでは、節約だけで9兆円もの財源を生み出すとうたうらしい。同時に鳩山代表は「4年間は消費税は上げない」とも言う。では、どこをどう節約するのか。それでも足りない分は国債に頼るのか。そこがあいまいでは、有権者は納得できまい。
公共事業を減らすといっても、総額は当初予算で7兆円だ。防衛費は総額5兆円。半面、年金、医療など社会保障費は25兆円に達し、年々確実に膨らむ。節約は容易なことではない。
子ども手当の財源として、幹部らが配偶者控除の廃止に言及するようになった。ことの当否は別にして、逃げずに負担増を語る姿勢は評価したい。
麻生首相にも言っておきたい。
景気回復後の消費増税を語るのは結構だが、それだけで大盤振る舞いの根拠とされても、有権者は眉につばをつけざるを得ない。これまでたびたび財政立て直しを先送りしてきた結果が、いまの借金の山である。
信じてくれというなら、よほど明確に手順や税率などを示すべきだ。
集中豪雨が中国地方に大きな被害をもたらした。山口県内では死者・行方不明者が17人になった。
なかでも山口県防府市の特別養護老人ホームでは、裏山が崩れて建物に土砂が流れ込み、入所していた5人が死亡し、2人が行方不明になった。なんとも痛ましいというほかない。
防府市では93年にも、豪雨による民家への土砂流入で高齢者2人が亡くなった。険しい山地やがけ地が多い日本列島は、土砂災害と背中合わせだ。その犠牲者は自然災害による死者の半数近くにのぼっている。
全国に52万カ所ある土砂災害危険個所のうち、高齢者など防災上の配慮が必要な人たちが利用する施設が立地している事例は約1万4千カ所もある。しかし、砂防ダム建設など災害予防のための整備を終えているのは、このうち3割に過ぎない。
防府市の土石流が起きた川の上流では、来年度中に砂防ダムが着工される予定だった。行政の対応がもう少し早ければと悔やまれる。
高齢者の福祉施設などは市街地に土地を確保できず、中山間部など危険なところに建てられるケースも多いだろう。防府市だけの話ではない。
危険度の高い場所を「土砂災害警戒区域」などに指定し、住宅建設などに一定の制限をかける土砂災害防止法が8年前に施行された。指定作業が終わった地域は全国でまだ4割に満たないものの、今回の特養ホームの一帯は昨年3月、警戒区域に指定されていた。
警戒区域については、市町村が地域防災計画の中で避難態勢を定めることになっている。ところが、防府市内の警戒区域は600カ所近くあり、特養ホームの一帯は未策定のままだった。
近年、局地的な集中豪雨による水害や土砂災害などが各地で相次いでいる。今回も、防府市では災害発生前の1時間雨量が観測史上最大の72.5ミリを記録した。国土交通省はこれまで把握が難しかった「ゲリラ豪雨」を予報できる観測体制を強化している。即応体制の充実をさらに進めてほしい。
今回は、土砂崩れの危険を予想する警戒情報が県や気象台から3度出されていた。ところが、想定外の雨量のために防府市の対応は混乱し、その情報を特養ホームに伝えていなかった。
防災情報などが的確に伝わらなければ、避難準備も遅れる。市が落ち着いて機敏に対応していれば、犠牲はもっと少なくてすんだのではないか。
自治体による避難勧告や避難命令のタイミングは常に難しい。だが、自治体は普段から住民とも話し合って準備し、過去の災害例を参考に早め早めに判断してほしい。
これから台風シーズンを迎える。被害が広がる時期を前に、自治体には防災対策の総点検を求めたい。