米金融機関の業績が回復している。4〜6月期決算では、シティグループが2四半期連続で最終黒字を確保し、ゴールドマン・サックスは過去最高益だった。昨年9月のリーマン・ショックを受けて、両社は昨年末まで大幅な赤字だった。
世界同時不況の震源といえる米金融界の経営改善は好ましい。しかし、決算の内容を見ると各社が安定的に収益を上げる体質になったとはいえず、安心は禁物だ。
業績回復の原動力は証券業務である。証券に特化するゴールドマンの場合、純営業収益の8割弱を株式や債券の売買関連で稼いだ。総合金融のJPモルガン・チェースは最終利益が前年同期比で4割近く伸びたが、けん引役は証券業務だった。
融資に代表される商業銀行業務に比べ、市場変動の影響を大きく受ける証券業務の収益は短期的な振れが激しい。4〜6月は萎縮していた投資家心理が和らいだ時期にあたる。投資家はリスクの高い株や債券への投資を再開し、売買を仲介する証券業務の収益機会は広がった。
だが、7月に入ると景気回復期待の後退で世界の株式相場がもたつく局面もあった。ゴールドマンの幹部は「リスクはなおまん延している」と楽観論をけん制している。
決算で目立ったのはむしろ、景気の悪化で各社の資産の劣化が止まらない点だ。シティグループは貸倒引当金の繰り入れが前年同期に比べて8割も膨らんだ。証券子会社の売却に伴う一時的な利益を除けば実質的には赤字決算である。バンク・オブ・アメリカの貸倒引当金への計上も2倍以上に拡大した。
米国の企業破綻は今年、昨年の2倍を超えるペースで膨らんでいる。失業率も10%の大台に近づいた。家計が保有する住宅に加えて商業用不動産の価格も下落しており、個人、企業向けともに融資が焦げ付いている。バンカメのルイス社長は、「融資先の信用低下が来年にかけて収益を圧迫するだろう」と指摘した。
世界景気は最悪の時期こそ脱したとの見方が強い。だが、各国政府による景気刺激策という応急措置の効果が大きく、最終的な需要が持ち直して持続的な景気回復につながるかどうかはなお不透明だ。
融資の焦げ付きはすでに、米大手ノンバンクCITの経営危機という形で市場の動揺を招いている。破綻に至らなくても、金融機関の資産が劣化すれば貸し渋りが長びく懸念も強まる。業績が一時的に回復したからといって金融システムへの脅威がなくなったと見るのは早計だ。