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天声人語

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2009年7月20日(月)付

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 92歳で亡くなったW・クロンカイト氏の名を知る日本人は多くないかもしれない。米テレビの黄金時代を代表するキャスターで、世論調査では大統領をさしおいて「米国で最も信頼される男」にしばしば選ばれた人物だ▼ケネディ大統領の暗殺を伝える姿が記憶に残る。「言葉にならない」と眼鏡を外して涙をぬぐった。感情をあらわにしたことに批判も出た。だが、氏は後に「恥じてはいない。次の瞬間には感情をのみ込んで平常に戻った。むしろそれを誇りに思う」と語っていた▼1960年代がまた一つ遠ざかったように思う米国民は、少なくないだろう。ケネディの「遺産」でもあった69年の月到達を、27時間におよぶ実況放送で伝えたのも氏だった。きょう(米時間)の着陸40周年を前にしての死去は、どこか感慨が深い▼思えば米国は有人飛行でソ連に後れをとった。「月をめざす」とケネディが語ったとき、まだ地球を回る軌道にも人を送っていなかった。絵空事として聞いた人もいたことだろう▼アポロ計画の映像を見ると、軌道の修正にまだ計算尺を使っている。にもかかわらず人類は、ガガーリン少佐の初の宇宙飛行からわずか8年で月に立った。それは、冷戦という軍拡競争のはざまに咲いた花でもあった▼クロンカイト氏に話を戻せば、月着陸は生中継による世界注視の冒険だった。氏の声を聞きながら愛国心を高め、月面の荒涼に地球の豊かさを再認識した米国人も多かったに違いない。時代への郷愁とともに胸に刻まれるであろう、稀有(けう)な放送人だった。

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