米投資銀行が相次いで収益を回復しているニュースを聞くにつけ、駆け足で回った米国で会った人たちの様々(さまざま)な言葉を思い起こす▼「同業者はみんなやっていることだ。優秀なスタッフを引き留めるためやむを得ないし契約だってある」。業績回復から社員給与を大幅アップしたニューヨークの金融機関幹部が放った一言だ▼「会社には忠誠を尽くしてきたつもりだ。でも経営トップは金融畑出身者ばかりで現場を知ろうともしなかった」。解雇を免れたデトロイト近郊の大手自動車ディーラーは怒気を押し殺すようだった▼「ウォール街の強欲が生んだハリケーン被害の後始末をなぜ我々がしなければならないんだ」。サブプライムローン破綻(はたん)で住宅差し押さえの波に晒(さら)されたクリーブランド(オハイオ州)で、荒廃した市街地の復興に奔走する地元議員の怨嗟(えんさ)の声だ▼クリーブランドは今「再建モデル都市」として全米の注目を集める。自治体特有の市裁判所を活用した悪徳業者の徹底訴追と百年以上の伝統を誇るスラブ系移民の緊密な共同体意識が溶け合い、官民一体の市復興運動が実を結び始めているのだ▼一方に天文学的金額を瞬時に動かす金融工学の錬金術。他方に一世紀に及ぶ故郷復興のため地をはうような試みを続ける共同体。相反する二つの米国像をつなぐ補助線をどこに見いだしたらいいのか戸惑う。