在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)中央本部の土地や建物などを詐取したとして元公安調査庁長官の弁護士緒方重威被告らが詐欺罪に問われた事件で、東京地裁は緒方被告に懲役2年10月、執行猶予5年(求刑懲役5年)の有罪判決を言い渡した。
広島高検検事長なども務めた大物検察OBが刑事責任を問われ、有罪判決を受けるのは極めて異例である。緒方被告は控訴の方針だが、事件の重大性を十分認識すべきだろう。
判決によると、緒方被告は整理回収機構による差し押さえを避けようと総連側が中央本部の売却先を探していたことに乗じて土地・建物や現金を詐取しようと、元不動産会社社長らと共謀。2007年、購入資金がないのに投資家が資金を出すよう装い、虚偽の説明をして中央本部の所有権を移転登記させて土地・建物を詐取したほか、「調達に必要」と現金4億8400万円をだまし取った。
公判では、緒方被告らに朝鮮総連をだます意図があったかどうかが争点となり、緒方被告は無罪を主張して古巣の検察と全面対決する構図となった。
判決は「総連側が強制競売を回避したいと切望しているのにつけ込んだ卑劣な犯行」と指摘。「いずれの犯行も元長官などの肩書を持つ緒方被告の関与なくして完遂できなかったのは明らか」とした上で「法曹の信頼を大きく裏切り、自らの利益を追求した点で厳しい非難を免れない」と断罪した。
検察OBとしての自覚と責任に欠ける行動だったと言わざるを得まい。検事から弁護士に転身する「ヤメ検」には、権威が悪用される危険が常につきまとうことを心すべきである。今回の判決は、法曹関係者に自重を促すようあらためて警鐘を鳴らしたともいえよう。