中国政府はまたも反発するのだろう。書家の武田双雲氏の筆になる墨痕鮮やかな「日本の防衛」の5文字を表紙に使った2009年版の防衛白書である。軍事力の近代化を進める中国のとりわけ海洋における活動を活写する白書は、日本の防衛当局の警戒感の表現なのだろう。
各種白書のなかで防衛白書は、出版物として比較的に売れる部類に属する。自衛官だけでなく、安全保障を学ぶ学生や研究者たちが読者とされる。冷戦時代の防衛白書は、ソ連の軍事力の分析を売り物にした。いまは中国に関する部分が内外の読者の関心にこたえる。
中国が軍事費を増やし、軍の近代化を進めているのは、国際的常識であり、実態が透明性を欠く点も広く知られる。国際社会にとって共通の懸念にもなっている。だからこそ、各国の防衛当局は情報収集を重ね、手の内をさらさぬ範囲内でそれを明らかにする。警告を内外に発信するためである。
ことしの防衛白書では、例えば、56、57ページの地図がそれに当たる。
ひとつは2008年10月に津軽海峡を通過した中国艦艇が沖縄本島の南を通って東シナ海に至る航跡を明らかにした。中国側も動きを察知されていたのは承知だったろうが、白書にまで掲載されたとなれば、愉快ではないはずである。
もうひとつは地図を逆さまにし、北を下にし、中国側から見て日本が中国の太平洋進出を妨げる位置にある実態を示した図だ。防衛省・自衛隊がつかんだ中国艦艇の主な動きがそこに書き込まれている。それを公表したのは、中国の海洋活動を抑止する狙いだろう。
活動の理由を、防衛白書は、領土・領海の防衛、台湾独立の抑止・阻止、海洋権益の獲得・維持・保護、海上輸送路の保護などと分析する。最近でも、東シナ海で日本企業も出資するガス田「白樺」(中国名・春暁)に船を派遣し、構造物の増築とみられる動きをしており、中曽根弘文外相が懸念を表明した。
白書が示す警戒感は、中国に対する外交的発信でもある。隣国を心配させる動きは慎む。国際社会の常識である。内容が不透明なまま軍事費を増やす中国にそれを求めたい。