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社説

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中高年登山―引き返す勇気を持って

 悪天候に見舞われた北海道大雪山系のトムラウシ山(2141メートル)と美瑛岳(2052メートル)で、登山客が相次いで遭難し、旅行会社のツアーに参加していた人やガイドら50〜60代の計10人が命を落とした。

 山岳史上に残る大惨事だ。中高年に「百名山」ブームが広がるなか、悲劇から厳しい教訓を得ねばならない。

 この時期の大雪山は、雄大な峰々に一斉に咲く高山植物が人々を引きつける。一方で夏とはいえ、北海道の2千メートル級の山々の気象条件は、本州の3千メートル級に匹敵するという。山頂付近で風雨にさらされれば、体感温度は簡単に0度以下になる。体の熱が急速に奪われる低体温症が、多くの犠牲者を出した一因となったようだ。

 低気圧の通過で山の天気は荒れていた。18人中8人が死亡したトムラウシ山のツアーが、1泊した避難小屋を出た時には強風が吹いていた。不安に思った人もいたというが、ガイドは出発を強行した。体調を崩して落後する人が続出し、一行はちりぢりになった。

 北海道の夏山の危険を知っていたならば、小屋で天候回復まで待つべきだった。なぜ下山を急いだのか。

 一行は旭岳温泉を出発し、3日間で40キロ余りを縦走する予定だった。疲労もたまっていただろう。悪天候を予想して、もっと手前で引き返すこともできたはずだ。

 ガイドの責任は大きいと言わざるをえない。十分な知識や経験を持っていたのか。どこで判断を誤ったのか。旅行会社の安全確保策はどうだったか。北海道警が捜査を始めたが、二度とこんな遭難が起きないよう、解明を進めてもらいたい。

 旅行会社が募集し、気軽に参加できる「ガイド付きツアー」の落とし穴もありそうだ。募集時にコースの難易度などが示されるが、ガイドは各地からやってくる参加者の技量や体力を把握しきれないだろう。初対面の参加者同士、仲間の不調を気遣うことが十分できるだろうか。

 参加者は「高い料金を払ったのだから無理をしてでも決行を」と言うかもしれない。日程はどうしても制約される。だが、安全あっての登山だ。旅行業界は自らツアーのあり方を問い直さなければならない。

 年々増える遭難者のうち60代以上が半数を占める。「山の高齢化」はこれからも進むだろう。いくら鍛えていても、疲労の回復には年齢の影響もある。経験への過信もあだになる。山を楽しみ続けるためにも、愛好者はいま一度、自分のレベルや体力を冷静に判定してほしい。

 夏休みに計画がある人は、行程をよく吟味し、体調や装備をしっかり点検する。そして、引き返す勇気も忘れずに山に持って行こう。

皆既日食―世紀のドラマを楽しもう

 月に隠されつつある太陽の最後の光が一瞬、ダイヤモンドのようにきらめいて消えると、真っ黒な太陽のまわりに真珠色のコロナがさっと広がる。

 お天気に恵まれれば、こんな皆既日食ならではの光景が22日の水曜日、南西諸島などで繰り広げられる。

 暗くなった空には、金星などの惑星がぽつんぽつんと光り、隠れていたオリオン座など冬の星座も姿を現すはずだ。突然の闇に驚いた鳥たちは、一斉に巣に戻ろうとするだろうか。

 皆既日食の続く時間は、最も長い小笠原沖で約6分40秒、今世紀最長である。日本の陸地で見られるのは46年ぶり、次は2035年だ。

 あいにく皆既が見られる地域は限られるが、インターネットによる生中継も予定されている。

 部分日食は全国で見られる。南ほどかけ方は大きく、西日本では8〜9割欠ける。空気もひんやりして、涼やかな空気が肌に心地よいかもしれない。地面で三日月形に揺れる木漏れ日なら、特別なめがねもいらない。

 日本列島に住む私たちにめぐってきた幸運を、たっぷり楽しみたい。夏休みが始まったばかりの子どもたちにとっては、願ってもないプレゼントになるだろう。

 月の400倍の直径を持つ太陽が、月の400倍遠くにあるために、すっぽり隠されてしまうことで皆既日食は起きる。これぞ造化の妙というべきか。自然から地球人への贈り物だ。

 もっとも、その幸運は永遠ではない。月は毎年約4センチほど地球から遠ざかっており、6億年ほどたつと金環食だけになってしまう。そうなったら、昼間の闇はもう望みようがない。

 せっかくの機会だ。人類が宇宙に刻んだ歴史にも思いをはせたい。

 今年は、ガリレオが初めて手作りの望遠鏡を空に向けて400年になる。月面のでこぼこや太陽の黒点も、ガリレオによって初めて観測された。

 40年前の7月21日には、アポロ11号のアームストロング船長が月面に歴史的な一歩を記した。月面を飛び立ったのは翌22日だ。見上げる月の表面に人がいたときもあるのだ。

 「はるばる月まで出かけて、最大の成果は地球を発見したことだった」。あるアポロ宇宙飛行士の言葉だ。暗黒の宇宙に浮かぶ、はかなげな青い球体。人類は月面に達して、地球という環境のかけがえのなさに気づいた。

 皆既日食はこれからも、計算された時刻と場所で起きる。たとえば東京で見るなら、2762年だ。

 そのときの日本、人類、そして地球はどうなっているだろう。遠い遠い子孫たちは、私たちと同じように皆既日食を楽しむだろうか。

 想像の翼を広げ、家族や友人と語り合ってはどうだろう。

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