文部科学省が作った生徒指導支援資料「いじめを理解する」は「いじめはどの子にも起こりうる」と訴える。調査を踏まえての指摘だ。学校は「必ずある」との構えで対策に取り組んでほしい。
調査は文科省の国立教育政策研究所(国研)が二〇〇四年度から三年間、首都圏の十九小中学校に対し、継続して行った。小学四年以上の児童生徒約四千八百人からいじめに関する質問の回答を書いてもらった。
いじめの実態を単発の調査で解明するのは難しい。国研の調査は学校別の比較のほか、学年別や個人別、さらに歴年変化も分析したというから、調査対象校でなくても結果を参考にできるだろう。
分析では、特定の学校や学年でいじめが起きやすいかというと、答えは「ノー」だ。「仲間外れ」や「無視」といったいじめ被害とみられる件数に学校や学年別で一定の傾向はみられず、悪化と改善を繰り返す場合もあった。
個別にみると、中学生の場合、常にクラスに三〜六人が被害に遭っていたが、常習的被害者は千人に三人だけ。一方で「被害はない」という生徒は一年春の58%から三年秋には20%まで減った。
「いじめ被害・加害を繰り返す特定の子はごく一部。被害者、加害者とも大きく入れ替わる。いじめはどの子にも起こりうる」とした結論づけは妥当と言えよう。
資料は今月中には各学校に配られる。戸棚に置くのではなく、しっかり活用してもらいたい。
調査結果が現場向けにまとめられたのは今回が初めてだが、調査は一九九八年度から始まった。〇三年度までの結果は国際会議では報告されたという。
なぜ、現場に活用しなかったのか。社会問題化しているのに、いじめを軽く考えていないか。
今回の資料も、最新データで〇六年度だ。いじめを分析したなかで「パソコン・携帯」は、中学生でもせいぜい一割程度と低い。
ネットでのいじめは急激に増えている。〇八年度の文部科学白書は「ネット上のいじめなど情報化の影の部分が大きな社会問題」と指摘している。
せっかく調査しても取りまとめが遅いと有効利用できなくなる。調査を実施したなら速やかに結果を公表すべきだ。
ネットいじめは見えにくく、校外で行われることが多い。生徒指導支援資料ではほとんど触れていないが、学校は保護者との連携を強めることも重要ではないか。
この記事を印刷する