キリンとサントリーが経営統合の交渉に入った。少子高齢による国内市場の縮小が、両社を財務基盤強化や海外進出へと駆り立てている。再編が価格支配力を強め、消費者利益を損ねてはならない。
食品国内最大手のキリンホールディングスと二位のサントリーホールディングスの昨年十二月期の売上高は計四兆円に迫る。統合すればビール、清涼飲料が国内首位に、世界有数の酒類・食品メーカーに躍り出る。
ともに過去最高益を更新しているのに、なぜ統合を目指すのか。
スーパーなどは低価格でも利益が出るよう、食品メーカーに値下げ圧力を強める一方だ。これに対抗するため、食品メーカーも財務基盤強化に向け、規模拡大によるコスト削減を迫られている。
間違いなくやってくる内需の減少にも備えなくてはならない。昨年生まれた赤ちゃんは百九万人、亡くなった人を五万人下回った。人口が減れば日本の「胃袋」も小さくなる。千四百兆円に上る家計部門の金融資産は七割を六十歳以上が保有しており、現役世代を退いた団塊世代も生活資金として取り崩し始めた。国内消費の回復に過大な期待はできない。
キリン、サントリーは統合交渉に入る前から将来の人口減を見据え、メルシャンや米国の清涼飲料関連会社をそれぞれ買収するなど内外で規模拡大を進めてきた。
イオンやセブン−イレブン・ジャパンなどもコンビニの中国進出を加速させている。電力会社もフィリピンなどの発電企業に出資を始めた。内需型産業でも外需を取り込む。経営の形を変えざるを得ないのが今の日本の現実だ。
とはいっても金融危機で痛手を被った米国頼みには限りがある。キリン、サントリーは生活水準が上がっている中国などの新興国に向かうのだろうが、既に欧米の巨大企業が支配力を強めている。強者連合としての両社には、進出先でのM&A(合併・買収)など市場を引き寄せる戦略が不可欠だ。
さらにはアパレル製造小売り専門のユニクロのように、徹底して価格競争力や商品開発力を磨かないと新たな市場開拓は難しい。グローバル競争を生き抜くために越えなければならないハードルは多い。
国内に目を向ければ、両社が統合されるとビール系飲料のシェアは約50%になる。寡占化で消費者に高い商品をつかませてはならない。公正取引委員会に国民が納得する審査を望みたい。
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