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天声人語

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2009年7月16日(木)付

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 国鉄がJRになった頃だと思う。「長らくのご乗車、ご退屈さまでした」という車内放送にずっこけたことがある。そこまでへりくだるかと、妙な同情を覚えたものだ▼日本の鉄道は概して口数が多い。「駆け込み乗車は危険です」「白線から離れてお歩き下さい」「より多くの方が座れますよう」と絶え間なし。客に小言を垂れながらのサービス業も珍しい。低学年を受け持つ先生の声が大きくなるように、それだけ「聞き分けのない子」が多いのだろう▼悪いのは聞き分けのみならず。大手私鉄やJRなど23社によると、08年度、客から鉄道係員への暴力行為が過去最悪の752件あった。私鉄は前年度比29%増である。深夜が多く、加害者の58%が酒を飲んでいた▼忘れ物を早く見つけろと殴り、乗り遅れたぞと打ちのめす。さしたる理由もなく、いきなり手足が出る例が多い。駅員の制服は「公共」の象徴にして、ただいま勤務中の目印だ。その前では、おれは客だという優越感が不当に膨らみやすい▼精神科医の香山リカさんが『キレる大人はなぜ増えた』(朝日新書)で書いた通り、カチンときたら容赦なく注意に及ぶ人が増えた。それも「わかり合うためにではなく、あくまで自分の怒りを伝えるため、謝罪を導き出すため」に。その先に暴力がある▼夜の通勤電車は、体面や建前を脱ぎ捨てる「心の更衣室」でもある。だらしなくボタンを外したストレスが、何かの拍子で手頃な標的に暴発する。対話不能の酔眼を思えば、駅員の「多弁」ぐらい喜んで聞き流したい。

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