HTTP/1.1 200 OK Date: Tue, 14 Jul 2009 01:19:20 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:臓器法改正 提供側への配慮怠るな:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

臓器法改正 提供側への配慮怠るな

2009年7月14日

 改正臓器移植法が成立し、年齢に関係なく臓器提供できる道が開かれた。渡航移植せずに済むようにするためだが、衆院解散に伴う廃案を避けようと審議不十分のまま採決に踏み切った感は否めない。

 改正法は一年後に施行され、法の性格が一変する。改正法というよりむしろ新法に近い。

 一九九七年に成立した従来の移植法は、臓器提供者(ドナー)側の「自己決定権」を重視し、文書による提供の意思表示と家族の同意を要件にしているほか、指針で意思表示できるのは十五歳以上に限定するなど高いハードルを設けている。改正法では、意思表示が不明なときには家族の承諾で提供できるほか年齢制限を撤廃し、提供条件を緩める。

 現行法は脳死は臓器提供の場合に限って「人の死」としているが、改正法は脳死は一般に「人の死」と位置付けている。

 総じて現行法がドナー側に軸足を置くのに対し、改正法は移植を受ける側に立つといえる。

 衆参を通し、合わせて六案の改正案が提出された。倫理観、死生観が絡む問題だけに意見が多様に分かれることを示しているが、論点を一つずつ時間をかけて審議し、意見の収斂(しゅうれん)を図る努力は見られなかった。この点が現行法の成立時とは大きく異なる。

 それだけに改正法には幾つかの疑問が指摘されている。

 脳死を「人の死」とすることについて改正法支持の国会議員や日本移植学会は「運用上は臓器提供の場合に限る」と説明するが、臓器提供以外の医療現場で治療の中止や人工呼吸器を外すのが早まる恐れはないのか。脳死を「人の死」とすることを受け入れない国民への配慮を忘れてはならない。

 臓器提供やそれを前提にした脳死判定は拒否できることを国民に明確に伝える必要もある。

 救急医療の現場で脳死患者が発生したとき、医療機関は従来、意思表示をしている患者の家族だけに提供の意思を確認すれば済んだが、本人意思が不明のとき、すべての家族に確認するのか。そうなると、過大な負担を負わすことになり、救急医療の崩壊に拍車をかけることが懸念される。

 今国会では脳死ドナーをいかに増やすかに焦点が当てられ、わが国で多数行われている肝臓などの生体移植についての法的規制はほとんど審議されなかった。生きているドナーを守る観点から、ドナーの要件を脳死移植並みに法で厳格に定めることが求められる。

 

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