総務省が2009年版情報通信白書を発表した。世界不況で情報通信分野でも投資や輸出の落ち込みが目立つが、インターネットの利用は着実に増えている。地縁や血縁に加え、「電縁」と呼べるネット上のコミュニティーが新たな社会や経済成長の基盤になり始めたと指摘した。
今年の情報通信白書は編集も電縁時代を意識した構成となった。表紙の図柄を子供たちから一般公募し、本文は印刷物だけでなく、過去の白書にさかのぼって、すべてネット上で閲覧できるようにした。政府の白書では初めての試みだ。
情報通信市場はこれまでパソコンや携帯電話などハードが市場を担ってきたが、電縁時代にはコンテンツ(情報の中身)やサービスが主役になってくるという。それを端的に表しているのがネット広告の急速な拡大だ。すでにラジオや雑誌の広告を追い抜き、新聞広告とも肩を並べる規模に成長した。
一方、ネットの活用が遅れているのが行政や医療、教育などの公的な部門だ。個人情報保護の問題が足かせになっているとし、興味深いデータを示した。パソコンへの侵入被害は先進国で日本が一番低いのに対し、ネットに対する不安感は日本が飛び抜けて高いという点だ。
ネットへの不安と活用度との間にも相関関係がある。グラフで示すと、安心と感じているデンマークやスウェーデンなどでは活用が進んでいるが、日本はその対極に位置し、ネットに対する潜在的な不安が活用を妨げているという。
先週も米国や韓国の政府などを狙った大規模なサイバー攻撃があった。ネットの安全対策は日本でも不可欠だが、必要以上に警戒感をあおれば、世界トップとされる日本の通信インフラも十分に生かせない。
情報通信技術は経済成長への寄与度も高い。白書によると中長期的に情報化投資を加速すれば、2010年代の実質成長率を平均で1%近く底上げすることができるという。
政府は景気対策を兼ねた「3カ年緊急プラン」と中長期戦略の「i―Japan戦略2015」をまとめている。安心・安全な電縁社会の実現が日本経済の成長につながるよう戦略の着実な実行を望みたい。