よく言ってすれ違い、さらに言えばけんか別れの印象すらあった。主要国首脳会議(ラクイラ・サミット)の際に行われた麻生太郎首相とロシア・メドベージェフ大統領の北方領土をめぐる協議である。
大統領は5月に首相が国会で「ロシアによる不法占拠」と発言したことを批判し、今月、北方領土を「わが国固有の領土」と明記した改正北方領土問題解決促進特別措置法が成立したことにも「ロシア議会は激しく反応している」と反発した。「妥協的な解決を探ろうとするなら、議会対応も含めて相応の努力をすべき」とも指摘した。
首相は「国際法上、根拠のない占有だ」と切り返し、険悪ムードさえ漂ったという。さらに首相は「政治的進展がなければ、東シベリア経済開発など経済協力でちゅうちょする動きも出てくる」とけん制した。
大統領は、2月の首脳会談で「新たな独創的アプローチ」による解決に言及、5月に来日したプーチン首相も「7月の首脳会談ではあらゆる選択肢が話し合われる」と述べた。日本企業が参画する石油・天然ガス開発事業「サハリン2」の稼働など経済協力が進んでいることもあり、日本側は今回の首脳会談で交渉の進展を期待した。支持率低迷に苦しむ麻生首相には会談で成果を挙げ、政権浮揚を図る目算もあったろう。
だが、期待は見事に裏切られた。ロシア側からみれば、衆院選を間近に控え、先行きの全く見えない麻生政権を手助けする理由はなく、足元をみられたというところだろう。上院がビザなし交流中断を大統領に求める声明を採択するなど、ロシア国内で日本に対する譲歩に反発が強いこともある。
とはいえ、進展への機運はしぼんでも交渉そのものをあきらめるわけにはいかない。北方領土問題は、たとえ首相や政権党が代わろうとも、日本として粘り強く解決に取り組まなければならないテーマだ。
ロシアとしても世界的経済危機の影響で国内経済は決して芳しくない。日本との経済協力は進めたいところだろう。政治面でも、日本との溝を深めることは、米国や欧州との関係からも得策ではあるまい。
今回、メドベージェフ大統領は北方領土問題に関し、あらためて「現世代が生きている間に解決することが大事だ」と語った。日本としては、経済協議などを含めたあらゆる対ロシア交渉の場で問題解決への糸口を探っていく必要があろう。