本当によくできていると思うのは、人間の身体である。例えば、このなじみ深い、親指▼W・ソーレル著『人間の手の物語』は、それを<人類という種が達成した最高の傑作>とほめたたえる。他の四本の指から独立していることで<人間に長さ・幅・厚さの三次元の感覚を与える>と言われれば、なるほどと思う▼しかし、親指であれ何であれ、身体の部位を制御しているのは脳だ。それこそ最高に「よくできている」といわねばなるまい。われわれは何げなく二本足で立っているが、これとて脳と足の込み入った連携プレーあって初めて可能なものらしい▼大阪大などのチームが発表した研究結果によると「身じろぎもせず立っていた」とか「直立不動」とかいう表現は、いささか厳密さを欠くようだ。重心がある程度ずれると、脳が、足の筋肉に運動指令を送り、体をわずかに揺らして不断に重心を調整することで、直立の姿勢を保っているのだという▼子ども時代、ちょこまか動き回っていると、先生に「落ち着きがない」としかられたものだ。それで立たされたりもしたが、実は常にちょこまか体が動いているからこそ安定して立っていられたわけだ▼ギリシャ神話でも聖書でも、人間は土からつくられたことになっている。それにしては実に精妙なつくりではないか。「上出来!」という印に親指を立てるとしよう。