借金は完済、給料も二倍。このご時世に何とも景気のいい話だが、海の向こうには、そんな結構な会社がある▼米金融大手のゴールドマン・サックス。政府から一兆円の公的資金を借りていたが、先ごろさっさと完済。さらに先日の報道によれば、従業員への今年の報酬は昨年のざっと二倍、一人当たり平均六千七百万円に上りそうだとか。他の大手金融機関でも高額報酬復活の兆しがあるらしい▼確かに、ニューヨーク市場の株価も一時よりはうんと持ち直し、各種の経済指標も上向き。日本経済もその辺は似たような傾向で、政府も「景気は底を打った」と宣言している。だが、しかし▼雇用危機はむしろこれからだ。最新の数字(五月)だと、有効求人倍率は過去最低。完全失業率もかなりの高水準だ。かてて加えて失業手当の支給期限切れを迎える人が今後続々と出てくる。生活資金が断たれるのだから切実である▼何か変じゃないか。本はといえば、米金融界の“強欲”に原因する世界不況なのに、その当事者側は早々再生して「六千七百万円」を謳歌(おうか)、側杖(そばづえ)を食っただけの実体経済の末端の担い手はなお日々の暮らしにも困る状況とは…▼町内の火事で多くの世帯が焼け出され苦労しているのに、火元の家が真っ先に建て直し、豪勢な新築祝いでもしているようなものだ。理屈はどうあれ、とにかく間尺に合わない。