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1960年の日米安保条約改定の際、核兵器の持ち込みをめぐる日米密約が交わされた問題で、またもや新たな証言が飛び出した。
情報公開法が施行された01年ごろ、当時の外務省幹部が密約の関連文書をすべて破棄するよう指示していた。元政府高官が匿名を条件に朝日新聞にそう明らかにしたのだ。
これまで政府は、核艦船の一時寄港などは持ち込みとはみなさないというような密約は「存在しない、従って文書も存在しない」と繰り返し国会で答弁してきた。
だが、最近になって、80年代後半に外務事務次官を務めた村田良平氏が密約の存在を認め、「事務用紙1枚に書かれて、封筒に入っていた」という文書が、歴代事務次官に引き継がれていたと語った。
これに続く「破棄指示」の証言である。本当に破棄されたかどうかまでは確認されていないという。
これは、国民に対する許し難い背信行為ではなかろうか。国益がからむ外国政府との交渉で密約が必要だったとしても、それは後年、国民に公開し、妥当性について説明するのが政府の責任であるはずだ。もう昔のことだ、世界は変わったのだからいいではないか、ではすまない。密約の内容、そして隠し続けたことへの批判に向き合わねばならない。
主権者である国民に対して、政府が重大な事実を隠し、その証拠も処分してしまう。これではとても民主主義とは言えないではないか。
この指示に、時の首相や外相、官房長官らは関与していたのだろうか。政治家抜きで、つまり官僚だけの判断で破棄が指示されたとすれば「官の暴走」と言うよりない。
それなのに中曽根外相はきのう、問題を調査する考えはないと述べた。密約自体は半世紀も前の話だとはいえ、破棄が指示されたのは01年ごろのことだ。現役官僚も関与しているかもしれない。なぜ真剣に調べようとしないのか、納得できない。
米国の公開公文書や関係者の証言で、密約の存在はすでに明らかになっている。それを「存在しない」と国民にうそをつき続け、さらには破棄指示の証言にまで無視を決め込む。麻生政権のこの態度は、無責任を通り越したものだ。
麻生首相は間近に迫った総選挙をにらんで、自民党の政権担当能力を強調している。ここは事実関係の調査に乗り出し、長年の一党支配によるうみを出してみせたらどうか。
民主党は、政権をとれば密約を含めて徹底的に情報公開をするといっている。総選挙を前に噴き出したこの問題は、日本の民主主義の成熟度を根底から問いかけている。
米欧日が合意すれば世界がついてくる時代ではない。イタリア・ラクイラでの主要国首脳会議(G8サミット)は、そんな多極化時代のG8の限界をまざまざと示した。
大恐慌以来の世界経済危機に対処しようと、昨秋から2度にわたるG20金融サミットが開かれ、地球規模の政策協調の場として定着しつつある。9月に米ピッツバーグで3度目のG20が予定され、今回はG8が初めて「準備会合」の性格を帯びた。
経済金融問題に関する首脳宣言は、景気安定化の兆しを踏まえて4月のロンドンG20宣言を焼き直したような内容になった。財政出動や金融面の危機対策を終わらせる「出口戦略」に言及したのが目立つ程度だ。危機防止のための金融規制など肝心のところはピッツバーグG20へ持ち越した。
温暖化問題はG8と並行して開いた主要経済国フォーラム(MEF)が注目された。「先進国が50年までに温暖化ガスを80%以上削減する」とのG8合意をもとに、中国やインドなどに「50年までに全世界で半減」への同意を求めた。だが、反発されて「相当量削減する」との表現にとどまり、この点でも今後に宿題を残した。
新興・途上国のまとめ役としても期待された中国の胡錦濤国家主席の突然の帰国も響いたのだろう。
東西冷戦下の75年に仏ランブイエ城で初のサミットが開かれて34年。グローバル化と米国の地位の相対的低下が進んだ時代にふさわしい国際協調のあり方が模索されている。
G8は当面、新興5カ国を加えた拡大会合を継続する。今回はこの会合で、世界貿易機関(WTO)ドーハ・ラウンドの閣僚会合の9月開催と来年中の妥結を目指す首脳宣言をまとめた。これはひとつの成果だ。
G20を温暖化や安全保障など幅広いテーマを話し合う場にする道も模索されてよい。その一方、オバマ米大統領が打ち出した「核安全保障サミット」のように課題別の拡大サミットが増える可能性もある。
いくつもの枠組みが並行しながら世界的な合意を形成する過渡期が続くのかもしれない。
もともとG20やMEFは米欧が提唱してできた。為替や金利などの政策協調で実績を上げてきたG8の指導的役割はなくならない。G20はきめ細かい合意を目指すには所帯が大きい。機動的対応や合意づくりの仕組みの点でも不安がつきまとう。G20を機能させるためにも、準備会合にはとどまらないG8の力量が問われそうだ。
日本は安閑としていられない。重層化した協調システムに積極的に加わり、構想力を磨いて存在感を示していかなければならない。
そういう時代に私たちはいる。