乗客百六人が死亡、五百六十二人が負傷したJR西日本の福知山線の列車脱線事故で、神戸地検は山崎正夫同社社長を起訴した。大惨事を引き起こした経営責任をはっきりと解明してもらいたい。
大事故から四年二カ月余り。やっと経営陣の刑事責任追及が始まる。神戸地検は業務上過失致死傷罪で山崎社長を起訴した。書類送検されていた運転士と元幹部八人、当時の社長ら旧経営陣三人は不起訴だった。起訴が現社長一人だけだった点が検察として苦渋の決断だったことを物語る。
山崎社長は事故現場となったカーブの付け替えが行われた一九九六年当時、常務・鉄道本部長で安全対策の最高責任者だった。地検は自動列車停止装置(ATS)が設置されていれば事故は防げたのにそれを怠った−と判断した。
現場を見ればカーブはきついし列車本数も多いからATS設置は当然やるべきことだったと思える。事故の直接原因が制限速度を大幅に超過してカーブに進入した運転士のミスにあることは事実だが同社の安全対策は十分でなかったというのが地検の最終判断だ。
これに対して山崎社長と同社側は付け替え工事から八年以上たち、その間に六十万本以上の列車が通行していたが問題はなかったと反論。「事故は予見できなかった」と責任を否定している。
だが、そうした主張自体が同社の体質を表すものだ。国土交通省の航空・鉄道事故調査委員会(現運輸安全委員会)はすでに最終報告書でATSの設置の重要性とともに、事故の背景にはミスをした運転士に草むしりなど懲罰的な日勤教育で、逆に隠蔽(いんぺい)体質を生む問題があったと指摘している。
現在はATSはじめ積極的な安全対策を実施中だが、運行ミスだけでなく車掌の暴行事件が起こるなど、安全と顧客最優先の体質はまだ確立されていない。
遺族や負傷した人たちの同社に対する不信感は強いままだ。それが賠償交渉の遅れとなっている。今回の起訴は、遺族らの心情を反映したものといえよう。
今後は公判で「予見可能性」が焦点となろう。当時は国のATS設置義務がなかったことや同じような鉄道事故で不起訴となった事例もあるため検察立証のハードルは低いとは言えない面がある。
尼崎脱線事故はJR発足後、最悪だった。山崎社長は辞任を表明したが当然である。経営体質などの問題解明はこれからだ。
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