「核兵器のない世界」を提唱したオバマ米大統領が就任後初めてロシアを訪問し、メドベージェフ・ロシア大統領と核軍縮について合意した。超核大国の米ロが率先して核軍縮に取り組む姿勢を鮮明にしたことは核廃絶への確かな一歩といえよう。両首脳の合意を弾みに国際的な機運を高め、力強い歩みにしていきたい。
首脳会談の焦点は、12月に失効する第1次戦略兵器削減条約(START1)に代わる新たな核軍縮条約の年内締結に向けた協議がまとまるかどうかだった。両大統領は、後継条約発効後7年以内に戦略核弾頭数を1675〜1500、大陸間弾道ミサイル(ICBM)などの核弾頭運搬手段は1100〜500の上限数を達成するとの共同文書に署名した。
米ロは、2002年に戦略核の上限を12年末までに2200〜1700とする戦略攻撃兵器削減条約(モスクワ条約)に調印しているが、今回の首脳会談では削減目標を厳しくすることになった。核弾頭の運搬手段の上限数設定では、優位に立つ米側がロシア側の要求をのんだ格好だ。核弾頭は運搬手段を伴わなければ兵器としての意味がないだけに、削減に合意した意義は大きい。
会談後の共同記者会見で、オバマ大統領は後継条約に関し「年内に仕上げられる」と自信をみせた。核軍縮に消極的だったブッシュ前政権と比較すれば、大変な変化である。
インドやパキスタン、北朝鮮、イランといったように、核兵器の保有にこだわる国がじわりじわりと広がっている。核拡散防止条約(NPT)に基づく不拡散体制を無力化させかねない深刻な状況に陥っている。人類の危機といえよう。
NPTは、核保有国を米ロなどの5カ国と認める代わりに、誠実に核軍縮交渉を行う義務を課している。それなのに、核軍縮は進んでいない。5年に1度開かれるNPT再検討会議を来年に控え、核保有国が目に見える形で核軍縮に取り組まなければ、非核保有国に不公平だとして核武装を主張する口実を与える。5カ国は「誠実な核軍縮」がNPT体制の強化につながることを再認識すべきだ。
米ロ首脳会談では、ロシアが核軍縮と関連付ける東欧での米ミサイル防衛(MD)計画見直し問題は対立を克服できず、結論を先送りした。後継条約締結に不安は残るが、両首脳は信頼と互恵の精神で難題を解決してもらいたい。