2005年4月のJR福知山線脱線事故を巡って、神戸地検は山崎正夫JR西日本社長を業務上過失致死傷罪で起訴した。兵庫県警から書類送検されたり、一部の遺族から告訴されたりしていた、他の同社関係者はいずれも不起訴とした。
死亡107人、重軽傷562人の惨事は、きつい曲線路に制限速度を大きく超えて電車が進入したために起きた。国土交通省航空・鉄道事故調査委員会の最終報告(07年6月)によれば、もしカーブの手前に新型自動列車停止装置(ATS)が設置してあったなら「事故発生は回避できたと推定される」。
現場の曲線路を建設した当時、鉄道本部長で安全管理を統括していた山崎社長は、ATSを設置しなかった不作為について「業務上必要な注意を怠り、人を死傷させた責任」を負う、というのが検察の判断だ。
鉄道の運行に直接たずさわらない経営者が事故の刑事責任を追及されるのは極めて異例で、検察も今回の刑事処分は迷ったようにみえる。ATSを設置しなかったのを注意義務違反に問えるのか微妙だからだ。
事故調査委の報告も両論併記のような書き方をしており、ATSを設置していなかった無理からぬ事情があるとの見方を「曲線の速度超過による事故は(中略)死傷者は出ていない。国の規制もなく緊急性の認識はなかったとされる」と記す一方で、現場のカーブ手前のATSの「整備は優先的に行うべきだった」とも指摘している。
普通は、有罪の確信を得て初めて起訴する慎重な検察の背中を押したのは、まず被害者・遺族がJR西に向ける強い責任追及の声だろう。これだけの惨事なのに誰の処罰も求めないのでは世間は納得するまいとの、検察への風当たりも配慮しただろう。また集客施設の火災で防火・安全管理者に業務上過失致死傷罪の成立を広く認める最近の裁判例にも力づけられたのでないか。
裁判で検察の主張が認められるかどうかは別にして、JR西は事故の原因があげて自社にある事実を忘れてはならない。同時に、検察が異例の経営者起訴に踏み切った背後にある「社会の厳しい目」を意識し再発防止に取り組む必要がある。