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もう20年も前、中国の新疆ウイグル自治区を訪ねたとき、ウイグル族に対する漢族の蔑(さげす)みをしばしば感じた。たとえば取材車の運転手は、「連中を乗せると車が羊くさくなる」と同乗させるのを拒み続けた。ウイグル人は羊の肉を常食するからだ▼あるいは自治区政府の役人は、「仕事で彼らと組むのはごめんだ。結局、自分の仕事が2倍に増えるだけ」と渋面を作った。ウイグル人は怠惰で、責任感も乏しいという悪口である。支配者然とした優越意識が鼻についたものだ▼抑圧された民族感情の渦巻くこの地は「シルクロードの火薬庫」とも呼ばれる。そこがまた火を噴いた。炎は大きい。胡錦濤(フー・チンタオ)主席はサミットへの出席を取りやめ、急きょ帰国した。去年のチベットといい、封じるほどに噴き出す中国の少数民族問題である▼死者は少なくとも150人、負傷者も合わせれば千人を超すという。自警団さながらに、こん棒やパイプを持ってデモをする漢族の写真が紙面にあった。憎悪の充満した一触即発の危うさが、遠い地から伝わってくる▼古くから漢族は、西域にエキゾチックな宝物を求めてきた。現代の宝は豊かな地下資源だという。政治を仕切り、富を求めて増え続ける漢族に向くウイグル人の反感は膨らんでいる▼この自治区には『西遊記』にも登場する、「炎の燃えさかる火焔山(かえんざん)」がある。孫悟空が芭蕉扇(ばしょうせん)であおいで炎を消す場面は名高い。ひるがえって今回の騒乱である。民族の声たる炎を、中国政府が力ずくの弾圧という「扇」で消すことがあってはなるまい。