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歴史はときに人を選び、悔恨の深い役割を担わせることがある。米国の国防長官としてベトナム戦争を指導したロバート・マクナマラ氏も、そんな1人だったのではないか。93歳の訃報(ふほう)が首都ワシントンから届いた▼1960年代の国際ニュースに、最も登場した1人だろう。40代で自動車大手フォード社の社長に上りつめ、ケネディ大統領に請われて国防長官に就いた。統計にもとづく冷徹な合理主義者で、自信家でもあった▼逸話が残る。長官時代、自分への説明は文書で提出せよと命じた。わけを聞く側近に、こう答えたそうだ。「彼らが話すより自分で読む方が早い」(『ベスト&ブライテスト』)。その俊秀が、生身の戦争を前に、誤りと過ちを繰り返すのは周知の通りだ▼本格介入から泥沼化へ。「マクナマラの戦争」とも呼ばれたこの戦争で、おびただしいベトナム人が殺された。米側も約5万8千人が命を落とす。その傷はアメリカという国の心身を深々とえぐった。後遺症は今なお癒えない▼贖罪(しょくざい)の意味もこめてだろう。晩年は沈黙を破り、回顧録やドキュメンタリー映画で「ひどい過ちを犯した」と率直に語っていた。人生で得た教訓の一つが「人は善をなさんとして悪をなす」だったという▼5年前、かつてベトナム反戦の中心だった母校カリフォルニア大バークリー校に招かれた。そして「人類は20世紀に1億6千万人を殺した。21世紀に同じ事が起きていいのか。そうは思わない」と力を込めた。深い悔恨をへてたどり着いた、重い確信だったに違いない。