HTTP/1.1 200 OK Date: Mon, 06 Jul 2009 21:19:27 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:未認定救済合意 水俣病は終わらない:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

未認定救済合意 水俣病は終わらない

2009年7月6日

 水俣病と正式に認定されない被害者の救済法案が、あいまいさと不安を残したまま、今国会で成立する。「公式発見」から五十三年。政治はまだ「公害の原点」に真っすぐ向き合ってはいない。

 与党は民主党の主張をいれて救済の対象となる症状の範囲を広げ、公害被害地としての地域指定は続行する。民主党も、取引に応じるかのように、原因企業であるチッソの分社化に合意した。

 被害者の高齢化は進んでいる。「解決」は急がねばならない。だが、このままでは一九九五年に時の村山内閣が、患者として認定はしないまま、一万人余に一時金などを支払った時に次ぐ、「第二の政治決着」と言われても仕方がない。「政治決着」とは一時金などによる、医学的には「あいまいな決着」ということだ。被害者は半世紀以上、そのあいまいさに翻弄(ほんろう)されてきた。九五年の時も、水俣病患者の認定基準は変わらなかった。それがいまだに尾を引いている。

 二〇〇四年の関西訴訟で、最高裁が政府より緩やかな独自の基準を示したことにより、問題は再燃した。今度の合意案もあくまでも未認定患者の「救済策」であり、国の認定基準は変わらない。

 救済の要件は今回、手足の感覚障害から、全身のしびれなどにも広げた。だが、母親の胎内で有機水銀の被害を受け、生まれつき重い脳障害がある胎児性患者には、感覚障害が認められないとして救済から漏れる恐れもある。まだ四十代の人もいる胎児性患者の将来に大きな不安が残る。

 チッソの分社化は、今の会社を「補償(親)会社」と「生産(子)会社」に分け、子会社の株の売却益を補償に充てる筋書きだが、親会社がやがて清算されれば、責任の所在が法律上あいまいになるのは明らかだ。水俣病患者は「発見」当初、厳しい偏見と差別にさらされた。その恐怖から、名乗り出られない潜在患者はまだ多い。そんな人々への救済の道を閉ざすことにもなりかねない。

 水俣病の解決には、医学や科学による適正な判断が欠かせない。汚染が拡散した熊本、鹿児島両県にわたる不知火海全域の詳細な健康調査がまず必要だ。

 半世紀余りもあいまいなままにされてきた「水俣病の正体」をすべて明らかにした上で、それに基づいて、より広く被害者を救済できるよう、認定基準を正式に見直すべきだ。その日まで、水俣病は終わらない。

 

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