HTTP/1.1 200 OK Date: Mon, 06 Jul 2009 20:19:31 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:近江商人の心得といえば「三方よし」がよく知られている。<売…:社説・コラム(TOKYO Web)
東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 筆洗 > 記事

ここから本文

【コラム】

筆洗

2009年7月6日

 近江商人の心得といえば「三方よし」がよく知られている。<売り手よし、買い手よし、世間よし>の三方である▼滋賀県を本拠地に、天秤(てんびん)棒を担いで他国に出かけて商品を売り歩いた。最も活躍したのは江戸時代。行く先々で大切にされることが成功には不可欠だった。豪商になったとしても「一人勝ち」は禁物だったのだ▼最初にこの心得を説いたのは麻布商、中村治兵衛家の二代目宗岸だと伝えられる。十五歳と若い跡継ぎのために書き留めた遺言状の中に見受けられる。七十歳を迎え、後のことがよほど心配だったのだろう。日常生活の心得まで指導している▼家業の繁栄と永続を願っていたのは宗岸一人ではない。「家訓」「店則」「口伝」と形式は違えど、近江商人は体験に基づく教訓を数多く残している。「陰徳善事」、人知れずによい行いをする心得は「三方よし」と同様、共有されていたという▼例えば呉服商として成功した塚本喜左衛門家の家訓には<積善の家に必ず余慶あり>とある。これもよく考えれば「一人勝ち」に対する戒めである。ちなみに出典の『易経』を読むと、不善を積めば、後世まで災禍を受けると続いている▼時代は移り変わっても、人間社会の本質はさほど変わるまい。「なぜ、教えをしっかりと受け継がなかったのか」という近江商人の嘆き声が聞こえてきそうである。

 

この記事を印刷する