多いか少ないか、大きいか小さいかは別にして、失敗がない人生などあり得ない。心の奥底にとどまった失敗の記憶はいつ浮かび上がってくるか分からず、やっかいだ▼失敗とどう向き合えばいいのか。<私が考える失敗とは、ミスをすることではなく、ミスを取り返そうとしない消極的な姿勢>だと唱えるのは川淵三郎さん。プロサッカー「Jリーグ」の生みの親にして育ての親である▼サッカーの試合中は、いいときばかりではない。自分の失敗で失点する場合もあれば、決定的チャンスを外し、流れを変えてしまう場合もある。そこで「まだこれから」と気持ちを早く切り替えることのできる選手ほど、最後はいい結果を残すのだという▼著書『「51歳の左遷」からすべては始まった』から引用した。体験から導き出した結論である。会社員人生でも似たような出来事があった。二十七年目、本社から子会社への出向を命じられたのだ。ショックだったが、サッカーに再び情熱を傾けることができた▼心の持ち方で、事態がいかようにも変わる一つの例だろう。重い病に倒れた高齢の女性が、青春時代の記憶をたどる米映画『いつか眠りにつく前に』の一場面が頭に浮かんできた▼男性ピアニストが過去を嘆く若き日の女性に「過ちはすばらしい。人生を豊かにする」と語りかける。究極の気持ちの切り替えである。