ミャンマーの民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんの解放や民主化促進などを求め、潘基文国連事務総長が打って出た軍政トップとの直談判は何の成果もなく終わった。来年の総選挙をにらんだ軍政側の強硬姿勢の前に、国連外交の手詰まり感を印象付けた。
スー・チーさんは軍政によって何度も自宅軟禁されてきた。今年5月には軟禁の期限切れ直前に、米国人男性の自宅侵入を理由にした国家防御法違反の罪で起訴・拘置された。国民的人気の高いスー・チーさんによる総選挙への影響を恐れたあからさまな弾圧行為だ。
加えて、多数の死傷者を出した2007年の反軍政デモ弾圧以降の国連による民主化への働きかけが功を奏していない危機感が、事務総長にミャンマー行きを決断させたといえよう。
軍政のトップであるタン・シュエ国家平和発展評議会(SPDC)議長と2度にわたって会談した事務総長は、総選挙までにスー・チーさんを含む政治犯全員を解放することや、軍政と野党の対話再開、透明性ある民主的な総選挙の実施などを要請。だが、具体的な譲歩は引き出せず、スー・チーさんとの面会すら拒まれた。
軍政は昨年、主導して新憲法をまとめた。その下での総選挙によって影響力を維持しつつ民主化をアピールしたい考えだ。しかし、スー・チーさんらを排除する中での選挙では国際社会の理解は得られまい。一刻も早い解放が求められる。
事務総長訪問には「軍政側に利用されるだけ」との声があった。国連の見通しの甘さを指摘されても仕方なかろう。だが、失敗の原因には各国の足並みの乱れを見透かされた点もある。国際社会が協調して軍政への圧力を強めなければならない。