「核の番人」ともいわれる国際原子力機関(IAEA)トップの次期事務局長に、日本の天野之弥ウィーン国際機関代表部大使が選ばれた。
ノーベル平和賞受賞で知られるエルバラダイ事務局長の後任を決める特別理事会の選挙で、天野氏がアジアから初めて選出された。12月に就任する。
IAEAは技術協力支援などで原子力の平和利用を促進すると同時に、軍事利用を防止する核不拡散や核軍縮の取り組みも担う。その運営を取り仕切る事務局長に、唯一の被爆国である日本が擁立した天野氏が就く意義は大きい。
天野氏は「原子力の平和利用を実現する日本の姿を世界に示したい」と抱負を語った。ぜひ、そうしてもらいたい。地球温暖化などを背景に原子力発電への関心は高まっている。途上国の間では先進国の技術協力を望む声は多く、IAEAの支援に期待を寄せる。
原子力には軍事転用の懸念もある。特に2度の核実験を行った北朝鮮やイランの核問題への対応は急務である。天野氏も厳しいかじ取りを迫られよう。
天野氏はスムーズに次期事務局長に選ばれたわけではない。名乗りを上げた3月の前回選挙では決着がつかず、今回の選挙でかろうじて選出された。
麻生太郎首相らが天野氏への支持を関係国に呼び掛けるなど、日本は総力を挙げて食い込みを図ったとされる。天野氏が存在感を発揮するには、サポート強化が欠かせまい。
米国のオバマ政権誕生で核軍縮に期待が強まる中、核廃絶を訴える日本の役割は拡大している。米国の「核の傘」に頼ったままでは、天野氏の指導力にも限界があるだろう。政府・与党内でも根強い核武装論などもってのほかである。