中国政府は7月から、有害サイトへの接続を遮断する政府指定の「検閲ソフト」を国内で販売されるパソコンに搭載するよう義務付けると表明していたが、実施前夜に突然先送りを発表した。内外の反発に配慮した結果とみられる。ただ断念したわけではなく、なお警戒が必要だ。
中国の工業情報化省がパソコンに「グリーン・ダム」という名称の検閲ソフトを搭載するよう義務付ける通知を公表したのは6月9日。その直後から内外で批判が噴出した。
最大の問題は情報統制の新たな手段になる可能性だ。中国政府は「ポルノなどの有害コンテンツから未成年を守るため」と説明したが、米国務省のケリー報道官は「より幅広く情報がふるいにかけられるようだ」と述べ、強い疑念を示した。
動画投稿サイトへの接続を厳しく制限するなど共産党政権はネット規制を強めている。そのノウハウをアジアなどの権威主義的な政権がまねて、情報統制を進めている。
インターネットの発展は自由な情報流通を促し、世界の民主化の支えになると期待されてきたが、中国の対応は自由な情報の流れをせき止める動きのようにみえる。検閲ソフトについては中国国内からも強い批判があった。それを踏まえて、情報の統制から情報の開放への転換を、あらためて共産党政権に求めたい。
透明性を欠いた政策決定も今回浮き彫りになった深刻な問題だ。ソフトの選定は入札の結果だと中国政府は説明したが、他の応札企業の名前は明らかにしていない。中国国内では「政府と企業が結託した新たな利権づくりではないか」との指摘もインターネットで飛び交っている。
ソフトの安全面の欠陥やずさんな制度設計など、問題点は枚挙にいとまがない。とりあえず先送りされた最大の理由は、中国市場でシェア第2位の米ヒューレット・パッカード(HP)や米デルが安全面の不安を理由に搭載しない方針を表明したことだ、との見方が強い。
ここにきて当局者は「搭載を強制するわけではない」と表明し、柔軟な形で「グリーン・ダム」の普及を目指す構えを見せている。今後の展開はなお不透明だ。中国のネット規制の動向を注視すべきである。