国際原子力機関(IAEA)の次期事務局長に在ウィーン国際機関日本政府代表部の天野之弥大使が選出された。11月に任期が切れるエルバラダイ事務局長から「核の番人」を引き継ぎ、世界の原子力平和利用の推進と核不拡散を担う。
日本は世界で唯一の被爆国であると同時に原発が米国、フランスに次いで多い原子力大国だ。IAEAの分担額も米国に次いで多く、約16%も占める。しかし、日本人職員は2%程度と相応に遇されているとは言い難かった。日本が事務局長ポストを得て、存在感を示せるのは喜ばしい。
米国のオバマ大統領は4月に「核兵器のない世界」を唱え、核軍縮と核不拡散強化の機運が高まっている。日本は核不拡散の模範国で、原子力は平和利用に徹し、すべての原子力施設で査察も受けている。核廃絶を訴え、核不拡散に熱心な日本出身の事務局長就任は時宜にかなう。
もちろん核不拡散は一筋縄ではいかない。北朝鮮は再度の核実験を強行して国際社会に挑戦状を突きつけ、イランの核開発疑惑も解決の糸口が見えていない。天野氏には国連安全保障理事会による圧力を背景にこの問題に果敢に取り組み、日本の経験、知恵を生かし核不拡散のタガを締め直すよう期待したい。
エルバラダイ事務局長はイランにウラン濃縮を断念させようと、国際的な核燃料供給の仕組みづくりを提案している。ウラン濃縮と核燃料再処理については多国間管理を提案し、米国やロシアなどを巻き込んで具体化に動いてきた。
日本は核燃料サイクルの確立を掲げ、ウラン濃縮も再処理も独自路線を貫いている。これはエルバラダイ構想と食い違っており、天野氏が事務局長として日本の路線に沿わぬ選択を迫られることもあり得よう。大事なのは核不拡散体制の強化であり、日本は柔軟な姿勢で対応し天野氏を支える必要がある。
地球温暖化防止のため欧米では原子力回帰の傾向が強まり、発展途上国でも原発への期待が高まっている。核不拡散の手を緩めてはならないが、途上国に対しては平和利用の協力が拡大するよう力を尽くしてもらいたい。