HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Last-Modified: Sat, 04 Jul 2009 17:06:05 GMT ETag: "246109-4403-49cd3940" Content-Type: text/html Cache-Control: max-age=5 Expires: Sun, 05 Jul 2009 03:21:10 GMT Date: Sun, 05 Jul 2009 03:21:05 GMT Content-Length: 17411 Connection: close asahi.com(朝日新聞社):天声人語
現在位置:
  1. asahi.com
  2. 天声人語

天声人語

アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

2009年7月5日(日)付

印刷

 つぼみがほころぶ様を、少し気取って花笑みと言う。笑う、の形容がぴったりなのは今が盛りのユリとされる。そり返って開く大ぶりの花からは、ドレスを翻して微笑(ほほえ)む女性が浮かぶ。〈百合(ゆり)ひらく匂(におい)袋を解くやうに〉南千恵子▼揺れる衣装から、甘い霧が広がる。清楚(せいそ)に、はたまた妖艶(ようえん)に、むせるような芳香はこの植物の本性であろう。だからこそ、お見舞いの花束から外され、飲食の席にも飾りにくい▼それではと、茨城県つくば市の花(か)き研究所が、ユリの香りを抑える技術を編み出した。においの生成を妨げる薬剤を水に溶かし、つぼみ段階の切り花に吸わせる。こうして咲かせた花のにおい成分は、通常の8分の1、人がほぼ感じない程度に収まったという▼満面の笑みを「香水抜き」で楽しみたい向きには朗報である。におい消しの費用は切り花1本につき1円以下というから、十分商売になりそうだ。贈り物や冠婚葬祭での人気を見込んでか、すでに産地から問い合わせがあると聞く▼野生の香りは鮮烈で、これからが花時のヤマユリあたりは、目より鼻で気づくことがある。本来の自己主張をうまく丸め込む工夫は、何ごとも控えめをよしとするこの国らしい。「好かれる花」を創(つく)るための技と執念には感服する▼一方で微香のユリには、ノンアルコールの「ビール」にも似て、あるべきものを欠いた哀感が漂う。例えれば、真ん中に穴が開いたような寂しさである。つい、体臭や脂気に縁のない、すべすべの男性を思い浮かべては「草食系」の皆さんに怒られようか。

PR情報