HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Last-Modified: Fri, 03 Jul 2009 17:15:44 GMT ETag: "38a0a-52d8-4e78b000" Content-Type: text/html Cache-Control: max-age=5 Expires: Sat, 04 Jul 2009 00:21:07 GMT Date: Sat, 04 Jul 2009 00:21:02 GMT Content-Length: 21208 Connection: close
アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
原子力をこっそり軍事目的に悪用している国はないか。それを査察で確かめる役割を担うのが、国際原子力機関(IAEA)だ。「核の番人」の異名を持つこの組織のトップを、12月から日本の外交官がつとめることになった。天野之弥(ゆきや)大使である。
被爆国として日本は核廃絶を訴えてきたが、米国のオバマ大統領が「核のない世界」を目指す決意を示し、核をめぐる世界は新たな転換期を迎えようとしている。その時に、原子力や核査察などの識見と経験で世界でも高く評価される天野氏が事務局長に就任する。実に時宜にかなったことだ。
4年前にIAEA理事会の議長、2年前に核不拡散条約(NPT)再検討会議の準備委員会議長をつとめた。そうした長年の実績が評価された。
当選の背景には、日本の非核政策への評価もある。原子力の平和利用を徹底するため、世界で最も多くのIAEA査察を受け入れてきた。
北朝鮮が核実験をした後も核廃絶の重要性を主張し、非核外交を展開している日本は、世界に安心感を与え、尊敬を集めている。天野氏は、そんな日本が生んだ逸材である。
ただ、忘れてならないのは、IAEA事務局長は時に政治的な判断、行動を求められる厳しい職であることだ。米国など核保有国の意向とぶつからねばならない時もある。
現下の最大の懸念は北朝鮮とイランだ。北朝鮮はIAEAの監視要員を4月に国外追放したままだし、イランはIAEA理事会や国連安全保障理事会の求めを無視して、ウラン濃縮活動を続けている。
今後、外交交渉が進めば、改めてIAEAの査察能力が試されることになる。事務局長がそれぞれの国と折衝する場面もあり得るだろう。
オバマ大統領は4月のプラハ演説で、テロ集団などに狙われる恐れのある核物質を安全に管理するため、国際的な管理体制づくりを提唱した。国家レベルの拡散だけでなく、テロ集団への拡散防止で、IAEAがどのように専門知識や人材を生かしていくか。今後の課題だ。
途上国の中には「日本が米国に近すぎる」との懸念もある。米国が不拡散対策で途上国に新たな注文をつける公算が大きいと見ているのだろう。こうした懸念にも配慮しつつ、オバマ大統領と協調していかねばならない。米国との人脈も厚い天野氏の手腕に期待したい。
天野氏はあくまで国際機関のトップであり、日本を代表するわけではない。それでも、IAEAの強化をはじめ、核不拡散の前進に向けて積極的な役割を担うことで、政府は新事務局長を支えるべきだ。この朗報を日本の外交力アップにもつなげたい。
年末年始、東京・日比谷公園にできた「年越し派遣村」は、仕事も住まいも失った人たちの駆け込み寺になった。「派遣切り」された人たちが炊き出しに並ぶ長い列は、日本の働く環境の劣化を目に見える形で突きつけた。
年越しから半年。その後も失業者支援をしてきた派遣村は、先月末で看板を下ろした。
政府は景気が底を打ったと宣言し、経済指標も一部に回復の兆しがみえる。だが5月の有効求人倍率は過去最低。完全失業率は4カ月連続で悪化、過去最悪の5.5%に近づいている。
派遣村実行委員会が元村民らにアンケートしたところ、回答があった108人のうち就労できたのは13人。半数以上が求職中で、30回以上面接を受けた人もいた。労働市場の底辺までいったん滑り落ちた人たちの多くは、いまだにはい上がれずにいる。
政府は、職業訓練中に生活費を支援したり、失業者に住宅手当を支給したりする制度をつくった。しかし、多くはまだ始動していない。
なにより、派遣村に集まった人たちが陥った不安定な働き方を生む構造には、まだ何も手がつけられていない。労働者派遣法の改正も、ようやく与野党の方針が出そろったところだ。
派遣法改正の焦点は、雇用の調整弁として使われてきた製造業への派遣と、派遣先の仕事があるときだけ雇用契約を結ぶ登録型派遣だ。
政府は昨年11月に改正案を提出したが、たなざらしのままだった。日雇い派遣問題を受けて30日以内の短期派遣を禁じるものの、製造業派遣や登録型派遣は規制しない。
民主、社民、国民新の野党3党の案は先月下旬、ようやくまとまった。短期派遣の規制だけでなく、製造業派遣や登録型派遣を専門的な職種に限る。違法な派遣があれば、労働者からの通告によって直接雇用されたとみなせる規定も盛り込まれた。
製造業派遣、登録型派遣には何らかの規制や対策が必要だろう。国会会期は残り少ないが、与野党は直ちに審議に入ってもらいたい。
欧州では、有期契約社員や派遣労働者と、正社員の均等待遇が義務づけられた。給与や育休、社会保険など全般にわたる。雇用流動化がもたらす格差や貧困問題への一つの回答だろう。
規制緩和が優先された日本では、失業して雇用保険もなく生活保護にも頼れない非正社員が派遣村に集まった。
雇用の流動化を進めるなら、一気に均等待遇が無理でも、非正社員の労働条件の底上げが欠かせない。雇用保険には入れるようにしたい。非正社員の経験や技量を賃金に反映する仕組み、能力向上の機会を保障する手立てなど検討すべき論点は多い。派遣法改正の議論を、その端緒にしたい。