HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Last-Modified: Thu, 02 Jul 2009 17:27:19 GMT ETag: "5d7623-52e7-5a0e2bc0" Content-Type: text/html Cache-Control: max-age=2 Expires: Fri, 03 Jul 2009 00:21:04 GMT Date: Fri, 03 Jul 2009 00:21:02 GMT Content-Length: 21223 Connection: close asahi.com(朝日新聞社):社説
現在位置:
  1. asahi.com
  2. 社説

社説

アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

イラク米軍撤退―独り立ちへの試金石だ

 イラクの都市部に駐留していた米軍が郊外への部隊移動を完了した。オバマ大統領が公約した11年末までの全面撤退に向けた第一歩である。

 イラク開戦から6年。都市部に限られたこととはいえ、イラク人が自ら治安維持に責任を負う。新生イラクが真に独り立ちするための試金石だ。

 しかし、撤退を前に首都バグダッド周辺や北部のキルクークで、大規模な爆弾テロが続いている。国際テロ組織アルカイダ系の武装集団などの反米勢力が、治安への揺さぶりをかけていると見られる。

 今年の年末か来年1月には、独立回復以来3度目の国民議会選挙が予定されている。戦争やテロなどで10万人以上の市民が犠牲になった深い傷跡をいやすのは簡単ではない。これを無事に乗り切り、現在13万人以上いる米軍がすべて撤退することで、ようやくイラクが自立できる。なんとしてもこのプロセスを成功させねばならない。

 それに欠かせないのは治安の安定だ。その役割を担うイラク治安部隊は総勢65万人。米軍が訓練を支援するが、前途にはなお障害が多い。

 部隊の構成が、政権を主導する多数派のシーア派に偏っているため、スンニ派住民の不安を招いている。一方で、米軍がスンニ派地域で組織した約10万人の自警組織は治安部隊への編入が遅れている。

 背景には、旧体制を支えたスンニ派と、当時は抑圧されていたシーア派、クルド人との根深い対立や不信感がある。06年には宗派対立が激化し、一時は内戦状態にさえなった。

 マリキ政権には治安部隊の一本化を急ぐとともに、国民和解に力を入れてほしい。スンニ派自警組織の生みの親である米軍は政権との間にたって治安部隊への編入を進める責任がある。

 同時に、米軍全面撤退後のイラクを安定させるには、周辺諸国の関与が欠かせない。アラブ諸国や欧州連合、ロシア、日本なども加えた国際的な枠組みをつくる必要がある。これも協調を掲げるオバマ政権が主導すべきだ。

 特に、イラクのシーア派に影響力を持つイランの協力は欠かせない。大統領選挙後の混乱で米欧はイランへの批判を強めている。だが、だからといってイラク問題での対話も閉ざしてしまうのは誤りだ。

 国連による支援も再構築したい。国連は米軍占領下で爆弾テロの標的となり、撤退を余儀なくされた。しかし、国民和解や選挙実施など、紛争後の国づくりで国連が持つ豊富な経験を活用すべきだ。

 米英主導のイラク戦争で国際社会は分裂し、それが戦後のイラク再建にも影を落としている。動き始めた米軍撤退と連動して、国際的な連携を築き直さねばならない。

橋下知事判決―「重く受け止める」なら

 橋下徹・大阪府知事のタレント弁護士時代の発言が、再び司法の場で厳しく批判された。

 山口県光市の母子殺人事件をめぐり、橋下氏は07年春、大阪の読売テレビ制作の番組で、少年だった被告の弁護団を批判し、「弁護団を許せないと思うんだったら懲戒請求をかけてもらいたい」と視聴者に呼びかけた。

 その発言をきっかけに大量の懲戒請求を受けた弁護団が損害賠償を求めた裁判の控訴審で、広島高裁は橋下氏に総額360万円の支払いを命じた。

 一審が名誉棄損と認めた一部の発言について、高裁判決は番組の流れを検討したうえで、それを認めず賠償額を減額したものの、橋下氏にとっては2度目の敗訴である。

 橋下氏は発言について、懲戒制度の説明だったと主張したが、判決は「弁護士として懲戒請求に理由がないことを知りながら、あたかも理由があるかのような誤った発言をして誇張的に呼びかけた」と指摘した。

 懲戒の理由がないのに、その請求をしてはいけないのは当然だ。虚偽の理由にもとづいて懲戒請求をした場合、刑事責任を問われることもある。橋下氏は判決の指摘を真剣に受け止め、反省しなければならない。

 広島高裁の判断は、次のようなことだ。橋下氏は少年の弁護内容の当否を論ずるほどの情報がなかったのに、弁護団を一方的に指弾した。視聴者が一斉に懲戒を申し立てれば、弁護士会も懲戒処分を出さないわけにはいかない、という趣旨の発言は誤りである。

 そう指摘したうえで高裁は、「圧倒的な影響力を持つテレビ放送という媒体を利用し、虚偽の事実をないまぜにして視聴者に弁護団の非難に加わることを求めた」と不法行為を認めた。

 橋下氏は判決後、懲戒請求を呼びかけた発言が違法とされたことを「重く受け止めます」とする一方で、「言論活動がどこまで認められるのか判断を求めたい」と上告する意向を示した。

 上告するのはもちろん自由だが、この姿勢は分かりにくい。

 知事としての橋下氏の発信力、行動力は評価できる。政府の直轄公共事業への負担に異議を唱え、その対応を変えさせる原動力となった。新型の豚インフルエンザの感染が広がった時には厚生労働省の対応に注文をつけた。

 歯切れのいい発言で世論を味方につけ、既存の政府の政策にいどんだり政党にもの申したりする力量は、なかなかのものだ。政権交代がありうる状況の中で、地方分権を政治の大きな争点に押し出す役割を果たすことになるかもしれない。

 だからこそ、いつまでもこの問題を引きずらず、弁護団に謝罪してけじめをつけてはどうか。それが政治家としての飛躍の条件ではないか。

PR情報