日銀の企業短期経済観測調査(短観)で景況感が改善した。とはいえ、回復にはほど遠い。政府は来年度予算の概算要求基準(シーリング)を決めたが、景気への警戒態勢を緩めてはならない。
六月の日銀短観では、大企業・製造業の業況判断指数(DI)がマイナス四八となり、前回三月調査から一〇ポイント改善した。ただし、これをもって「景気悪化は底を打った」とみるのは早計だ。
たとえば、大企業・製造業の二〇〇九年度設備投資計画は前年度比24・3%減で六月調査としては過去最大の落ち込みを記録している。五月の新規住宅着工は前年同月比で三割減、雇用情勢も急激に悪化している。
米国では、金融危機の引き金を引いた住宅価格の下落に歯止めがかからず、自動車販売はじめ個人消費も低迷している。言ってみれば、景気はがけから転落する途中で木に引っ掛かったくらいの状況だ。再び「二番底」に転落していく懸念は消えていない。
そんな中で、政府が決めた概算要求基準は「とりあえずの仮置き」程度とみていい。間近に迫った衆院解散・総選挙で民主党が政権を握れば、予算の枠組み全体を見直す可能性が高いからだ。
概算要求基準だけでなく財務省幹部人事も例年に比べ一カ月も早く決まった。現政権が続いているうちに予算枠や人事を既成事実化し、民主党が政権を握った場合でも裁量の余地を減らしておこうという麻生政権と霞が関の思惑が一致した結果ではないか。
今回のシーリングは本来の狙いである歳出圧縮どころか、社会保障費の自然増から二千二百億円削減を断念したことが目玉になる皮肉な結果になった。求心力を失った政権の「仮置き政策」であることを象徴しているかのようだ。
そもそも、当初予算だけを対象にした概算要求基準という手法自体が形骸(けいがい)化している。当初予算をシーリングで縛ってみたところで、本年度のように庁舎建て替えなど筋の悪い公共事業を対象外の補正予算でばらまいてしまえば、財政規律は保てない。
小康状態にある景気が再び悪化していくようなら、秋以降、また財政政策の役割が真剣に議論される局面もあるだろう。
来年度予算編成作業はこれから本格化する。政府にはなにができて、なにができないのか。総選挙後に発足する新政権はこの際、予算編成の考え方全体を根本から検討し直すべきだ。
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