失業者急増や有効求人倍率の最低記録更新など、雇用悪化に歯止めがかからない。失業は非正規雇用労働者から正社員に広がってきた。政府の労働政策と企業の雇用責任はさらに重くなった。
政府の相次ぐ対策にもかかわらず雇用情勢は月を追って深刻さを増している。五月の完全失業率は5・2%、完全失業者数は三百四十七万人。求人状況を示す有効求人倍率は〇・四四倍と前月からまた悪化した。
派遣やパート・アルバイトなど非正規労働者の失業者数は、昨年十月から今年九月までに二十二万三千人に達するという。
一方、正社員にも解雇の波が押し寄せている。同じ期間に失業する正社員は前月調査より約三割も増えて三万五千人を超える見通しだ。非正規切りを終えた企業は、正社員解雇に向かっている。
こうした状況から夏以降、雇用危機の再燃が懸念されている。
雇用保険による失業手当の期限切れが迫るとともに、雇用対策の実行が遅れているためだ。
失業手当の給付期間はだいたいが九十日から百八十日と短い。給付が切れた後、仕事がなければ生活保護に頼らざるを得ない。
そこで政府は本年度補正予算で「緊急人材育成・就職支援基金」約七千億円を創設した。職業訓練を受けることを条件に月十万〜十二万円の生活費を支給する制度だが動きだすのは九月だ。基金を運営する中央職業能力開発協会は会計検査院から不正支出を指摘されたばかりで、不安の声もある。
また新基金は三年間の時限措置だ。これでは安心できない。ドイツやフランスのように「失業扶助制度」に発展させるべきだ。
雇用統計が発表された先月三十日、仕事も住む場所も失った人たちを支援し世間の理解を深めてきた「派遣村」実行委員会が解散した。緩和されすぎた労働者派遣法の欠陥と、国の雇用の安全網のほころびを鋭く突いた運動は衝撃的だった。「反貧困」の訴えは今後さらに浸透していくだろう。
こうしたミクロの視点からの告発に対して、厚生労働省が発表した今年の「労働経済白書」はほとんど応えていない。
長期雇用を柱とした日本型雇用慣行を再評価し、雇用の安定と質の高い雇用創出を−と提言したが現状への危機感が乏しい。第一、「派遣村」に関する記述が一行もないのはどうしたことか。労働者の窮状を明確にしない白書では、存在価値がないに等しい。
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