政府が「人づくり革命」と「生産性革命」を内容とする新しい経済政策パッケージを決めた。問題が多い、といわざるを得ない。 日本経済の最大の課題は潜在成長力の底上げと、先進国で最悪の財政の立て直しの両立だ。その姿が見えず、もちろん「革命」の名に値しない新政策だ。 人づくり革命では、消費税率を8%から10%に上げて増える税収を、教育や保育の無償化にあてるのが柱だ。予算規模は、企業の拠出金3000億円を加えて総額で年2兆円となる。 無償化は、3~5歳の幼稚園や保育所費用、0~2歳児を持つ住民税非課税世帯の保育所費用が対象だ。私立高校の授業料の実質無償化や、低所得世帯の大学の授業料や入学金の免除も盛り込んだ。 わたしたちは教育無償化より待機児童対策を優先せよ、と訴えてきた。仕事と子育てを両立しやすくして足元の人手不足を和らげるとともに、子どもを産み育てやすい環境をつくることは少子化対策にもなる。 政府はいちおう2020年度までに32万人分の保育の受け皿を整える計画だが、本当にそれで十分といえるのか。不安が残る。 高所得世帯を含めて無償化で大盤振る舞いするために、20年度に国と地方の基礎的財政収支を黒字にする目標を先送りする必要があったか疑わしい。費用対効果の視点から、真に支援が必要な人を絞り込む作業を怠ったのは残念だ。 企業は過去最高水準の収益を上げている割に、賃上げや設備投資の動きは力不足だ。「生産性革命」の名の下で、政府が減税により賃上げや設備投資を下支えしようというのは理解できる。 企業統治を強化できれば、潤沢な現預金を攻めの投資に振り向けやすくなる。問題は補助金などの予算措置だ。例えば、一過性のバラマキで無理に中小企業の情報技術投資を支援しても、過剰設備に終わってしまう懸念がある。 自動走行や遠隔診療の指針などをつくるというが、具体性に乏しい。焦点の規制改革では、裁判所で解雇無効の判決が出た後に金銭で労働紛争を解決する方法の結論をなお出せずにいる。 財政規律への配慮も、構造改革で潜在成長率を上げるという視点も乏しいのが新政策だ。成長と財政よりも、分配に過度に偏るならば、安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」に危うさは残る。