社説 健全なデジタル社会を築くために 2019/3/17 19:00 [有料会員限定] デジタル社会をけん引してきたインターネット。その中核となる技術が誕生してから30年の節目を迎えた。ネットは生活の隅々まで浸透して利便性や効率を高めたが、負の側面も目立ってきた。ネット企業、政府、そして利用者がそれぞれの責任を果たし、健全な発展を目指す必要がある。 フェイスブックはプライバシー保護を重視する方針を打ち出した 画像の拡大 フェイスブックはプライバシー保護を重視する方針を打ち出した 世界の5割超が利用 英国出身の科学者、ティム・バーナーズ=リー氏が現在の「ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)」へとつながるしくみを編み出したのは1989年3月のことだ。これが無数のウェブサイトが生まれる礎となり、ネットの利用が急拡大した。 国際電気通信連合(ITU)によると、2018年末の世界のネット利用者は39億人に達し、初めて人口の5割を上回った。ネットを通じてやりとりされるデータの量は過去10年間で15倍以上に増え、さらに5年以内に倍増するとの予測もある。 ネットにより情報を送るコストが大幅に下がり、スピードは上がった。その普及は多くの産業に影響を及ぼし、恐竜を滅亡させた隕石(いんせき)の落下に例えられる。情報を発信しやすくし、誰もが世界に向けて声をあげられるようにした功績も大きい。 だが、ここへきて負の側面が注目を浴びる場面が増えてきた。 ネットは自由でオープンな仕組みとして発展してきた経緯があり、悪意を持つ利用者も招き入れた。その結果、ヘイトスピーチや偽ニュース、サイバー攻撃といった問題が生じ、一部の企業に富やデータが集中しすぎることへの懸念も強まっている。 プライバシーの確保も重要な課題だ。交流サイト(SNS)の米フェイスブックは3月初め、データの保存期間の短縮などによりプライバシー保護に重きを置く方針を示した。同社は個人情報のずさんな管理でたびたび批判を浴びており、妥当な判断だ。 ひとつひとつは取るに足らないささいな情報でも、組み合わせることにより個人の趣味や嗜好を正確に推定できることが分かっている。こうした技術は16年の米大統領選などで悪用された。企業は情報を過度に集めず、利用者は提供しすぎないことが重要だ。 ネット企業は成長ばかりに集中せず、情報の管理体制などについて透明性を高め、説明責任を果たすべきだ。18年に欧州で一般データ保護規則(GDPR)が施行されたのを機に情報収集の際に同意を求める企業が増えたが、使途や利用者のリスクをより分かりやすく説明する必要がある。 中期的には個人情報に依存する広告のみに頼らない収益構造を築くことも課題だ。足元では広告への依存度が高い企業ほど、株価の下落率が大きい傾向がある。サービスの有料化に加え、広く事業資金を募るクラウドファンディング、公共性が高い事案ではNPOとの協業などもテーマになる。 ルールを設けるのは政府の重要な役割だ。プライバシーでは欧州に加えて、多くのネット企業が立地する米カリフォルニア州でも20年に新法が施行される。ネットは社会のインフラとしての役割が大きくなっており、こうしたルールを定めるのは理解できる。 利用者も責任を果たせ 一方で、企業を縛りすぎて技術革新を阻害しては元も子もない。適度な法規制と業界の自主ルールを組み合わせる「共同規制」などが、現実的な選択肢だろう。国際的な協調によってルールの整合性を保ち、企業が活動しやすい環境を整えなくてはならない。 利用者も責任を果たす必要がある。サイバー攻撃への意識を高めてセキュリティーソフトの利用などでリスクを回避し、人権や著作権を侵害するコンテンツは閲覧しないといった姿勢が重要だ。 一人ひとりが課題を理解して行動することにより、デジタル社会の基盤が強くなる。 日本ではこれまで、ネットを巡る問題は欧米ほど大きくなっていない。だが、生産性の向上などのためにデジタル化の加速が急務になっている。今後、負の側面は大きくなる可能性がある。社会全体が正しい知識を持ち、議論を深めて、問題を未然に防ぐべきだ。 現在、海外企業に対して国内企業よりも緩いルールを適用している例がある。欧州の事例などを参考にしながら、内外企業の競争環境を整えるべきだ。映像を扱うテレビ局とネット企業では規制が異なるといった事例もあり、技術革新を促すという視点を持ちながら、実質的に事業内容が同じ企業には同等のルールを課したい。 § [社説]敵対的TOBも企業価値向上の選択肢だ 2019/3/18 19:05 伊藤忠商事によるデサントへの敵対的なTOB(株式公開買い付け)が成立した。これにより伊藤忠のデサント株保有比率は30%強から40%に高まり、経営の支配権が強まることになる。日本では珍しい敵対的TOBが企業価値向上につながるのか、注目したい。 デサント取締役会は伊藤忠のTOBに反対したが、TOBは成立した 画像の拡大 デサント取締役会は伊藤忠のTOBに反対したが、TOBは成立した 日本では買われる側の同意を得ていない買収や株式の買い増しは「乗っ取り」などと警戒されることが多かった。 2006年にはそのタブーを破って、王子製紙(当時)が北越製紙(同)にTOBによる敵対的買収を仕掛けたが、北越側の第三者割当増資や同社の地盤である新潟県で「買収反対」の世論が高まったことなどから、失敗に終わった。これに懲りたのか、それ以降の12年間、日本の大企業同士の敵対的TOBは皆無だった。 だが、世界に目を広げると、相手の承認を得ていない買収や合併提案は珍しいことではない。 調査会社ディールロジックによると、18年の世界の敵対的M&A(合併・買収)は44件で、買収総額は約18兆円に達した。武田薬品工業によるシャイアー買収のように、当初は相手経営陣が反対し、敵対的な形でスタートしたが、その後の協議で互いに歩み寄り、合意に至るケースも少なくない。 業界再編やM&Aを通じて、人材や資本といった経営資源を効率よく再配分することは、経済全体の成長性や生産性を引き上げる上で欠かせないプロセスだ。 個々の企業にとっても、再編や買収によって足踏みから脱却し、新たな成長の展望が開ける可能性がある。双方が同意の上のM&Aだけでなく、敵対的TOBが選択肢の一つとして定着するのは決して悪いことではないだろう。 「まずい経営を続けていると買収を仕掛けられる」という緊張感は、日本企業全般の経営規律の強化にもつながるはずだ。 ただ、今回のTOBについては課題も残る。伊藤忠とデサント双方の経営陣の感情的な対立がTOBの背景にあるとされるが、今後は両社が協力して、デサントの企業価値を高める戦略を描き、結果を出す必要がある。それができないなら、「TOBはしないほうがよかった」という結論になり、伊藤忠経営陣は自社の株主から責任を問われるかもしれない。 大株主の伊藤忠の都合が優先され、他の少数株主の利益が損なわれる事態もあってはならない。 ´2019/03/18 23:00:49 ¨ --------- § [社説]おぞましい憎悪犯罪を許すな フェイスブック 南西ア・オセアニア 社説 2019/3/18 19:00 ニュージーランド南部クライストチャーチの2つのモスク(イスラム教礼拝所)で、オーストラリア国籍の白人男性が銃を乱射し、50人が犠牲になった。おぞましいヘイトクライム(憎悪犯罪)であり、決して許してはならない。 15日、銃乱射事件を受けて記者会見したニュージーランドのアーダーン首相=AP 画像の拡大 15日、銃乱射事件を受けて記者会見したニュージーランドのアーダーン首相=AP 逮捕・訴追されたブレントン・タラント容疑者は、ネット上に残した犯行声明とみられる文書で「移民への報復」や「伝統と文化の保護」を掲げていた。「世界に安全な場所などないことを示す」とも表明していた。 移民や難民に寛容で、世界的にみても平和な社会を作りあげてきたニュージーランドを、狙い撃ちしたような印象を受ける。 ニュージーランドの人たちに与えた衝撃の大きさは想像に難くない。ただ、事件を機に社会に亀裂が走ったり分断が深まったりすれば、それこそ容疑者の思うつぼだろう。悲しみを乗り越え寛容な社会を守る勇気を期待したい。 容疑者は銃5丁を合法的に保有していたという。ニュージーランドの銃砲管理体制が緩かった印象は否定できない。遅まきながら、アーダーン首相が銃規制の強化を表明したのは当然である。 犯行の模様を容疑者はフェイスブック(FB)で「生中継」していた。その動画を削除するのが遅れたとの批判を、FBなどは浴びている。かねて問題視されてきたフェイクニュースに限らず、反社会的なコンテンツをどう抑え込むか。ネット企業は問われる。 一方で、動画に当局が早く気づけば被害を抑えられた可能性もある。ネット上で飛び交うさまざまな情報を早期の警報につなげる取り組みを、当局やネット企業は強化する必要がある。 移民や難民の増加が社会にストレスをもたらしがちなことには、改めて注意したい。深刻な政治問題となっている欧米に比べると日本では移民も難民も少ないが、4月の改正入国管理法の施行を機に外国人労働者が一段と増えると予想される。社会の調和をどう保つか、考えていきたい。 ´2019/03/18 23:01:20 ¨ -----------