§外国人の日本語学習下支えを 社説 2017/12/10付  日本に住む外国人が社会に溶けこみ、活躍するうえで重要な鍵となるのが日本語の能力向上だ。日本語がよく理解できないため生活に苦労している人も少なくない。  外国人の数が増えるなかでこうした状況を見過ごせば、社会の不安定化にもつながりかねない。外国人の日本語学習を支える体制を整えていく必要がある。  日本に住む外国人数は2016年末で238万人に達した。日本語の指導が必要な外国籍の小中高校生などの数は同年度に3万人を超え、4年間で27%増えている。  だが、これまで外国人住民への日本語学習支援は自治体任せで、現実には地域のボランティアに頼ってきた。人手は足りておらず、ボランティアの高齢化も目立つ。学校で外国人生徒の日本語学習を支える仕組みもでき始めたが、やはり人手不足で体制は不十分だ。  外国人が多く住む都市でつくる外国人集住都市会議は先月、三重県津市で開いた会合で「日本語習得を自助努力に任せる考え方から転換し、生活や就労に必要な日本語学習機会を保障する制度の設立に踏み切るべきだ」と宣言し、国として外国人の日本語習得に責任を持つ体制の確立を求めた。  政府の対応が遅れがちな裏には総合的な外国人受け入れ政策の不在がある。語学支援は本来、総合政策の一環となるべきものだ。  例えば、日本語の能力を高めた人材には在留資格で有利な扱いをすることの制度化が考えられる。日本にずっと住むと想定される子供がきちんとした日本語を習得できるようにすれば、能力をいかして社会に貢献する人材が育つ。  ドイツは、移民が社会から疎外された反省から、長期滞在などを望む外国人に一定時間のドイツ語講習を義務付ける仕組みを持つ。 人材や予算を考えれば同じことはできない。だが、言葉の問題を軽視したまま場当たり的に外国人を受け入れれば、社会の分断を招く心配もある。中長期的な社会の活力や安定という視点から日本語学習支援を考えるべきである。 ´2017/12/09 23:34:52 ¨ ---------- § 日本は米国をWTOにつなぎ留めよ 社説 2017/12/10付  世界共通の貿易ルールを定め、複数の国・地域の間の紛争解決にあたっているのが世界貿易機関(WTO)である。「米国第一」を掲げるトランプ米政権はWTOを批判し、WTOの判断に従わない可能性さえ示している。  最大の経済大国がこのような内向きな態度を示してWTOの機能が低下すれば、自由貿易の推進に強い逆風となる。日本が中心となって米国をWTOにしっかりとつなぎ留めなければならない。  WTOは10~13日にアルゼンチンで閣僚会議を開く。貿易自由化をめざすWTOの多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)は、先進国と新興国が鋭く対立して妥結のメドが全くたっていない。  それでも閣僚会議の意義はある。保護主義的なトランプ政権の誕生後初めての会議はそれぞれの国・地域がWTO改革や、電子商取引などの新たな通商課題を突っ込んで話し合う場となるからだ。  日本は欧州連合(EU)と経済連携協定(EPA)交渉を妥結させた。11カ国による環太平洋経済連携協定(TPP)の成果もいかして議論を主導してほしい。  焦点の米国はWTO協定上の通報義務を怠っている国・地域を対象に、事実上の罰則を科す提案をしている。念頭にあるのは中国だろう。  たとえば、ある国が製品の国家規格を変えた場合、他の加盟国・地域に通報しなければならないルールがある。しかし、中国はインターネット安全法の施行時に通報を怠った。この点を米国は問題視しているとみられる。米国の提案は理解できる。  一方で米国は、WTOの紛争処理機関で最高裁判事にあたる上級委員の欠員を埋める手続きに入ることに反対している。事態を放置して、WTOが紛争解決の役割を十分に果たせないのは困る。  通報義務の提案で米国と足並みをそろえてWTO改革をけん引しつつ、上級委員の選任を巡る米国の理不尽な対応を戒める。日本にはそんな建設的な役割が求められている。欧州も自由貿易の旗振り役としての日本に期待している。  TPPや温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」に続き、WTOからも米国が離脱すれば、世界の自由貿易秩序は崩壊の瀬戸際にたたされる。そんな最悪の事態を防ぐためにも、今回の閣僚会議をWTOにおける米国の重要な役割を再確認す ´2017/12/10 01:07:54 ¨ ---------- § 5Gにらみ電波の有効活用を 社説 2017/12/9付  政府の規制改革推進会議が電波の活用に関する答申をまとめた。  電波はいわゆる第4次産業革命を支える重要インフラの一つで、第5世代(5G)と呼ばれる次世代の高速携帯通信のほか、自動運転やドローンの遠隔制御、ワイヤレス充電といった新技術を実現するには欠かせない。逼迫する電波資源を適切に配分し、日本経済の成長につなげたい。  答申は電波のどの領域(周波数帯)が、どんな用途に割り当てられているのか、利用実態の「見える化」が必要だとした。  携帯通信会社や各放送局への割り当てについては一定の情報開示が進んでいるが、警察や消防など公共部門の使用実態は非開示が多い。通信の傍受や妨害の恐れのないよう配慮しつつ、開示を進めるという方針は妥当だろう。  従来は広い周波数帯域を使わないとできなかったサービスが、無線技術の革新により小さい帯域で実現できるようになる例もある。  そんな場合は余剰になった周波数を政府が回収し、新たな技術や用途に再度割り当てる仕組みも欠かせない。電波行政を担う総務省は答申の趣旨を生かした制度づくりに取り組んでほしい。  議論を呼びそうなのが、継続して検討することになった電波の入札制だ。高い金額を払う事業者に優先的に利用権を与える仕組みで、導入推進派は「価格で決まるので電波行政の透明性が上がる」「日本以外の先進国はすべて導入済み」などと主張する。  一方で懸念も大きい。米国などの事例をみると、入札価格が高騰し、兆円単位の巨額に及ぶことも珍しくない。今の日本の携帯通信市場はNTTドコモなど大手3社による寡占化が進み、巨額の入札費用をそのままユーザーに転嫁することも可能だ。  その結果、例えば5Gのサービス料金が跳ね上がるような事態になれば、むしろ新技術の普及を妨げかねない。入札制については、通信市場の競争促進策とセットで議論する必要がある。 ´2017/12/10 01:08:35 ¨ ---------- §欧州は改革で結束し安定の礎を  2017/12/29 2017年のはじめ、欧州は世界の波乱要因になるとの予測が出ていた。域内に流入する中東・アフリカからの難民や移民が急増し、テロも頻発し、欧州連合(EU)加盟国で移民排斥を唱える極右政権が相次ぎ生まれる――。 そうした懸念はひとまず杞憂(きゆう)に終わった。3月のオランダ下院選挙で中道政党が第1党を死守し、4~5月のフランス大統領選では中道のマクロン氏が勝利した。世界の金融市場や実体経済に悪影響を与える事態を回避できた点は評価したい。 極右伸長に警戒解くな しかし、過度の楽観は禁物である。9月のドイツ下院選では極右政党が初めて議席を獲得した。オーストリアでも極右政党が政権入りした。18年春のイタリア総選挙では、大衆迎合主義(ポピュリズム)政党の躍進が見込まれている。既成政党への不信感から、極右やポピュリズム政党が今後も勢いづく可能性は残る。 欧州は開かれた自由民主主義や市場経済、法の支配や基本的人権といった価値観を堅持できるか。警戒を怠ることはできない。 足元でEUを揺さぶっているのはポーランドだ。政権の司法介入がEUの理念である法の支配の原則に反しているとして、EUの執行機関である欧州委員会はポーランドを対象に制裁手続きに入るよう提案した。 重大なEU条約違反になりかねない行為を問題視したのは当然だ。EUから巨額の補助金をもらいながらEUの価値観に背を向ける。自らはユーロ圏ではないが、統合深化の恩恵は受けたい。そんなポーランドのいいとこ取りを許せばEUの秩序は保てない。EUは厳しく臨む必要がある。 欧州にとって18年の課題のひとつは17年に続き英国のEU離脱である。英EUの交渉は18年から通商協議を含めた第2段階に入る。 19年3月の英EU離脱からは一定の移行期間を置き、英国はEUの単一市場や関税同盟にとどまる。焦点はその後の自由貿易協定(FTA)などによる英EUの経済関係のあり方だ。まず英国が早く説得力のある将来像をEUに示す責任がある。 正式なFTA交渉は19年3月以降になる。それに先立ち英EU双方は18年秋までに離脱条件を定めた協定に合意するとともに、通商分野の予備協議でも間合いをできるだけ縮めるべきだ。日本企業を含む世界が離脱に備えられるように最大の配慮をしてほしい。 同時に、英国を除くEU加盟27カ国は結束し、二度と欧州統合が逆戻りしないように改革を遅滞なく進めねばならない。気になるのは、堅調な景気からか、政治指導者に慢心の兆しが見えることだ。 EUの中核はユーロ圏19カ国だ。それなのに12月15日のEU首脳会議はユーロ圏改革の議論に深入りせず、実質討議を18年3月以降に先送りしてしまった。 域内の最大の経済大国であるドイツで新政権の発足が遅れているため、EUとして重要な結論を出しにくくなっている。メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)と第2党のドイツ社会民主党(SPD)は連立合意にむけた協議を急いでほしい。 ユーロ圏改革は預金保険制度の一元化にメドをつけ「銀行同盟」を完成させるのが急務だ。 ユーロ圏改革を急げ 金融安全網である欧州安定メカニズム(ESM)を欧州通貨基金(EMF)に衣替えさせるのも妥当だろう。域内銀行の破綻時の資金手当てもできるようになれば、金融危機への耐性は高まる。 ユーロ圏の財務相や予算の可否の議論は後回しでいい。まずEU首脳は18年6月をメドにユーロ圏改革の明確な全体像を示してほしい。もちろん財政「規律」重視のドイツと、「統合」に軸足を置くフランスの歩み寄りが要る。 独SPDのシュルツ党首は米国にならって、EU加盟国がさらにEUに権限を移す「欧州合衆国」を実現すべきだとの考えを示している。これに対し、ファンロンパイ前EU大統領が「欧州への懐疑主義はなお根強く残っている」と拙速を戒めたのはもっともだ。 いま欧州に求められているのは壮大なビジョンではない。域内に成長と安定をもたらす具体的な改革の基礎を固め、着実に実行に移すことだ。その点を欧州各国の指導者は忘れず、果敢に行動する18年としなければならない。 日本とEUは経済連携協定(EPA)交渉を妥結させた。トランプ米大統領が保護主義的な政策に傾く中、欧州は日本とともに世界の自由貿易をけん引してほしい。 2017/12/29 09:25:19 ¨ ---------- §順風の年こそ難題を片付けよう 社説 2018/1/1付  新年を迎え、目標に向けて決意を新たにした方も多いだろう。2018年をどんな年にしたら良いのか。政府と企業の課題を考えてみよう。  「世界経済は2010年以来なかったような、予想を大きく上回る拡大を続けている」。米ゴールドマン・サックスは18年の世界経済の実質成長率が17年の3.7%から4.0%に高まるとみている。地政学リスクなどあるが、久しぶりの順風である。 財政・社会保障の姿を  08年のリーマン・ショック以後、世界経済は停滞が続いた。米欧や中国で潜在成長率が下がり、貿易の伸びが低下する「スロー・トレード」も目立った。それが16年後半あたりからはっきりした回復をみせている。  先進国の大規模な金融緩和によって、株や不動産などの資産価格が上昇し、企業収益が拡大、投資につながる循環が動き出した。  日本の景気も7~9月まで7四半期連続のプラス成長を記録し、17年度は2%近い成長率を見込む声が多い。少子高齢化による人手不足が省力化投資を促している。上場企業は18年3月期に最高益を更新する見通しだ。  国内政治も波風の少ない年である。衆院選は終えたばかりで、参院選も19年夏までない。秋に自民党総裁選があるが、党内に安倍晋三首相の座を脅かす有力な対抗馬はいない。総裁3選ならば20年の東京五輪・パラリンピックをまたぐ超長期政権が現実味を帯びる。  国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は「日が照る間に屋根の修理をしよう」と呼びかけている。J・F・ケネディの言葉を引用したもので、経済が順調な間に手間のかかる改革をやり遂げることの大事さを指摘する発言だ。「何かが政治的に難しいからといって避けて通れるわけではない」  18年は日本の「明治150年」にあたる。150年は前半が明治維新から太平洋戦争、後半が戦後復興からバブルを経て今に至るまで、と画然としている。来年に改元を迎えるこの時に、政府が最優先でやるべきことは何か。  超高齢化社会を乗り切る社会保障と財政の見取り図をきちんと描くことにつきる。近代国家の建設や経済復興にも匹敵する難題だが、夏に政府が決める骨太方針で正面から取り組んでほしい。  団塊の世代が全員、後期高齢者になる25年以降、社会保障支出の膨張を抑えるのはどんどん難しくなる。今後20~30年は生産年齢人口は減るのに後期高齢者は増え続ける時代だ。健康寿命が延びているのに、従来の年齢区分で高齢者への社会保障給付を優遇する仕組みは時代遅れである。  65歳以上の労働力率も高まっている。就労機会をさらに確保して、年金の支給開始を段階的に70歳まで延ばすにはどうしたらいいか、総合対策を検討したらどうか。  19年には消費税率の10%への引き上げを控えているが、問題はその先だ。消費増税がデフレの再来や円高進行をもたらさないか注意しながら、「緩やかで継続的な税率上げ」を進める知恵がいる。  あわせて、財政との一体化が進む金融政策でも用心深い対応が必要だ。米欧が踏み出した異次元緩和の出口について、日銀の黒田東彦総裁はデフレ心理の払拭を最優先する姿勢を示している。 雇用改革も待ったなし  春の任期切れで黒田氏が続投しても新総裁が生まれても、課題は同じだ。経済がどうなったら、どの順番で金融政策を見直すのか。事前に市場に対してメッセージを送ることを忘れてはならない。  日本経済の活力は、政府の仕事だけで高まるものではない。企業にも大いに努力を求めたい。  積み上がった手元資金を新技術を生む投資に振り向け、従業員にも手厚く分配すべきである。  日本企業による画期的な製品やサービスが久しく出ていない。デジタル化の時代はアナログ時代と異なり、失敗を恐れず、会社の内外の人材を取り込み、迅速に動くことが欠かせない。  過去の日本経済の低迷を振り返ると、たこつぼともいえる年次・年功主義の限界が浮かび上がる。  高度成長期型の新卒一括採用をいつまで続けるのか。流動性の高い労働市場をつくれるかどうか。待機児童対策などと一体で進める女性就労の促進と合わせ、人事・労務改革も待ったなしだ。  19年は天皇陛下の退位と改元、統一地方選挙と参院選、20カ国・地域(G20)首脳会議の議長国など行事が目白押しである。その前に片付けられるかどうか。10年後の日本はそれで決まる。 ´2018/01/01 21:00:57 ¨ ---------- § 国際政治の液状化に向き合うには 漂流する世界秩序(上) 社説 2018/1/3付  国際情勢は今年も混迷が続きそうだ。超大国の米国は自国第一主義を一段と鮮明にしており、盟主なき世界は求心力を失ったままだ。人々の不安につけ込むポピュリズムの波が勢いを増し、政治の機能不全を加速する。朝鮮半島の有事がいよいよ現実味を帯びるなかで、日本も相当の覚悟で世界と向き合わざるを得ない。  中東の戦乱などを逃れた100万人を超す難民が欧州へと押し寄せてから、間もなく3年になる。 結束が試されるEU  コミュニティーを侵食される恐怖が欧州にパニックを引き起こし、欧州連合(EU)の統合の理念を脅かした。  過激派組織「イスラム国」(IS)がシリアやイラクでの支配地域をほぼ失い、新たな難民が大量に生まれる可能性はかなり小さくなった。これで欧州は再び安定を取り戻せるのだろうか。  残念ながら、問題の根はもっと深い。難民騒動の翌年、英国民はEU離脱を選んだ。中東からの難民はさほど来ていなかったにもかかわらずだ。以前から東欧系移民の増加に不満を抱いていたのが、EUへの不信感の高まりという形で爆発した。  移動の自由がもたらす経済的利益の魅力は、テロの恐怖や文化的侵食への反発で低下した。欧州では既成の政党や理念を拒否する声を、極右勢力がすくい上げた。  昨年のフランス大統領選では極右候補が敗れたが、ドイツでは第2次世界大戦後、初めて極右政党が連邦議会の議席を獲得した。オーストリアでは与党の一角を占めるに至った。EUは底流に潜む不安にひるまず結束を保てるのか。今年はそれを探る年になる。  欧州以上に混迷を深めるのが、米国のトランプ政権だ。昨年1月に発足すると、環太平洋経済連携協定(TPP)や地球温暖化に関するパリ協定から離脱表明した。  米国の孤立主義的な志向はオバマ前政権時からあったが、国際秩序を維持したいという思いは感じられた。トランプ氏はオーストラリアなど同盟国ともささいなことで仲たがいし、米国の国際的な影響力をそぐばかりだ。  せっかくISが弱体化したのに、イスラエルの首都はエルサレムとわざわざ宣言し、イスラム世界の怒りの火に油を注いだ。テロを呼び込むような行為ともいえる。昨年末に発表した安全保障戦略で「力による平和」を打ち出したが、いまの米国に世界をねじ伏せる国力があるとは思えない。  トランプ氏とほぼ唯一、関係が良好なのが安倍晋三首相だ。日本は防衛の多くを在日米軍に依存するだけに、外交の軸足を日米同盟に置くしかないが、いざ有事のときに、気まぐれなトランプ氏がどこまで日本を守ろうとするのかはよくわからない。  安倍首相は米国の視線を再び外に向けさせ、自由主義と市場経済を基盤とする幅広い安全保障ネットワークを構築するよう促す役回りが求められる。  米国と対照的に、国際政治の舞台で存在感を増すのが中国だ。 対中国のジレンマ  10年ほど前、米軍首脳と顔を合わせた中国軍首脳が「ハワイをはさんで太平洋を東西分割しよう」と持ちかけたことがあった。  そのときは笑い話だったが、もはや絵空事とは言い切れなくなっている。習近平国家主席は昨年の中国共産党大会で「2035年までに国防と軍の近代化はおおよそ完了する」と宣言した。  軍事的に台頭する中国の勢いをそぐには、中国とロシアの間にくさびを打ち込むなどして、新興国が日米欧に一枚岩で立ち向かってこないようにする必要がある。ロシアを味方に引き寄せようとする日米の戦略は的外れではない。  だが、日本は北方領土問題、米国はロシアゲート疑惑があり、必ずしも思い通りになっているとは言いがたい。中ロとも、トランプ政権は今年11月の中間選挙を乗り切れるのか、ひいては1期4年で終わるのかどうかを見極めようとしており、大きなディールには乗ってこないだろう。  中国の海洋進出の封じ込めが必要な半面、北朝鮮の核・ミサイル開発に待ったをかけるには、中国の協力が欠かせないというジレンマも抱える。液状化し、基軸を失った世界をどうひとつにまとめていくのか。複雑化する国際政治の方程式を解くのは容易ではない。 ´2018/01/03 18:15:19 ¨ ---------- § 技術革新に合わせた労働政策を テック社会を拓く 社説 2018/1/9付  人工知能(AI)やロボットが普及する「テック社会」には失業が増える懸念もある。新しい技術を使いこなして成果を上げる人とそうでない人とで、賃金の差が広がることも考えられる。  雇用を安定させ、働く人の二極化を防ぐために、手を打たなければならない。職業訓練などの労働政策を、技術革新が急速に進む時代に合ったものに改めるべきだ。 重み増す職業訓練  AIやロボットは生産性の向上に役立ち、労働時間の短縮が進めば女性や高齢者が働きやすくなる利点もある。経済を持続的に成長させるには、これらを積極的に活用する必要がある。  一方で定型的な仕事は機械に置き換わる例が増えよう。すでに銀行・保険会社の事務やホテルの受付業務などで動きがみられる。  AIやロボットが雇用に及ぼす影響をめぐっては、経済協力開発機構(OECD)加盟国全体で9%の職業がAIなどに代替される可能性が高いと、ドイツの研究者らは試算している。  ひとつの職業を構成する仕事には自動化が難しいものがあることを考慮したという。米国や日本では雇用の半数近くが機械化されるとした別の試算に比べればこの数字は低い。だが9%でも、雇用への影響は大きい。  AIやロボットは、それらを活用した事業に携わる人たちの雇用を創出することにも着目する必要がある。三菱総合研究所によれば、日本では2030年までに740万人の雇用が失われる一方、500万人の雇用が生まれる。  重要なのは第1に、働く人の能力開発だ。正社員、非正規社員を問わず、いまの仕事がなくなったり減ったりしても、別の仕事ができるようにしなくてはならない。  AIをはじめIT(情報技術)を駆使して新しい製品やサービスを創造する力を身につければ、活躍の場は広がる。  第2に、人材が需要のある分野へ移っていきやすい環境づくりだ。技術革新で仕事が生まれる分野は新たな雇用の受け皿になる。  労働政策でいえば国や都道府県による公共職業訓練の充実と、柔軟な労働市場の整備の2つが大きな課題になる。  能力開発ではもちろん企業が、AIを商品開発や販売に生かすための知識や技能を社員に養わせる必要がある。あわせて公共職業訓練も、失業者向けが中心の現状を見直して、在職者が学びやすい内容にすることが求められる。  たとえば退社後の時間帯を使ったIT分野などの講座を拡充したい。自宅で学習できるオンライン講座も設けるべきだ。  日本企業の人材育成はこれまで、自社だけで役立つ「企業特殊的」な技能の習得が主体だった。  しかし、AIや業務効率化のシステムはどの会社でも使えるものが広がり始めており、「企業特殊的な技能が次第にいらなくなる可能性がある」と山本勲・慶大教授は指摘する。社外での職業訓練の役割は重みを増そう。  柔軟な労働市場づくりでは、民間の力を引き出して職業紹介の機能を強化する視点が大事だ。 先行するドイツ  ハローワーク業務の民間開放を進めれば事業者間の競争を促し、人材仲介サービスの質が高まる。IT分野をはじめ介護・医療関連や教育など幅広い分野へ人が移りやすい環境づくりを急ぎたい。  ドイツ政府は16年、デジタル時代の労働政策を軸とした白書「労働4.0」を発表した。失業前からの継続的な職業訓練や、雇用の受け皿となるサービス産業の労働条件改善などを挙げている。日本も技術革新を踏まえた総合的な労働政策を打ち出してはどうか。  職業訓練などが利用しやすくなっても、本人の意欲が高まらなければ効果が薄いのも確かだ。リクルートワークス研究所の調査によると、正社員で「継続的な学習習慣のある人」は17.8%にとどまる。自分の将来ビジョンを描き、能力開発に励む人は少数派だ。  働く人本人の意識改革が重要になる。「いつ転勤を命じられるかわからず、人事評価も基準が明確でないなど、会社のルールの不透明さも学ぶ意欲をそいでいる」と大久保幸夫・同研究所長はみる。  年功色の強い人事処遇制度は早急に見直すべきだろう。学び続けるのに適した環境になっているか、企業も点検を求められる。 ´2018/01/11 20:18:34 ¨ ---------- §論理的思考を磨いて人材に厚みを 社説 2018/1/13付  人工知能(AI)やロボットなどを上手に利用する「テック社会」の実現には教育や人材育成がカギを握る。新しい技術について多くの人が基本的な知識をもち、正体の知れないブラックボックスにしないことが肝要だ。  それには子どものころからロボットなどに親しみ、技術との向き合い方を学ぶ教育が欠かせない。論理的な思考法や倫理を養う教育で人材を厚くし、世界に通用する研究開発の担い手も育てたい。 文理の垣根を払え  埼玉大学教育学部の野村泰朗准教授らは年に7、8回ほど、小中高生を集めて泊まりがけでロボットやプログラミングを教える集中講座を開いている。  昨年末にさいたま市で開いた講座では人と対話できるロボットを作った。小学生にとっては高度な課題だが、指導は最低限にとどめて設計などを考えてもらい、2日がかりで完成させた。  講座は「STEM教育」と呼ばれる教育法を取り入れている。科学、技術、工学、数学の英語の頭文字をとって命名され、米欧などで広がりつつある。「理系・文系と分けるのではなく、皆に論理的な思考法を身につけてもらうのが目的」(野村准教授)だ。  日本の教育は知識の習得に偏り論理的思考を磨くことは軽視されてきた。例えば学校で統計の読み方は学ぶが、データの集計法まで遡って真偽を確かめることは教えない。ビッグデータの利用が本格化しているが、データの扱い方を体系的に学んだ人は少ない。  文部科学省は2020年度から小学校でプログラミング授業を必修にする。算数や理科、総合学習などの授業の中で、プログラミングに必要な思考能力を養ってもらうことが狙いだ。  だが課題は多い。プログラミングの指導経験がない教員が大多数を占めるなか、カリキュラムを柔軟につくれるのか。教え手を外から招くにしても、日本のIT(情報技術)専門家は人手不足だ。  重要なのが、社会人が学び直せる「リカレント教育」の拡充だ。論理的な思考法は理工系出身者の専売特許ではない。文系出身者がプログラマーとして活躍することも多いように、社会に出てから学び直せる。  インターネットを使ったオンライン教育を活用するのは一案だ。大学の授業をネットで配信する大規模公開オンライン講座(ムーク)の受講者は世界で5千万人を超えた。日本版ムークでも「統計学」「データサイエンス」といった授業が配信されている。これらを積極的に利用したらどうか。  テック社会をけん引する最先端の研究開発に携わる人材を育てる必要もある。  車の自動運転のように、モノと情報が融合する分野から新たな技術が生まれている。だが理工系大学では機械や電気などモノづくり系の学部・学科と、情報通信などIT系の学部・学科の縦割り意識が根強く、研究者同士の連携も少ない。  この反省から学部や学科を再編する動きが出ている。金沢大は今年春、AIやロボット、新素材などを横断的に研究する「フロンティア工学類」を新設する。滋賀大や横浜市立大のようにデータ科学の専門学部を設ける動きもある。 社会全体で倫理規範を  日本は欧米などに比べAIやコンピューター科学の研究者が少なく、論文発表でも劣勢が続いている。大学の研究組織を見直すことから巻き返しにつなげたい。  「人工知能は人間社会にとって有益なものでなければならない」。研究者ら約4千人がつくる人工知能学会は昨年、学会として初の倫理指針を定めた。  学会員が法規制や他者のプライバシーを守る義務を明記し、研究の産物であるAIに対しても「社会の構成員になるためには、学会員と同等に倫理指針を順守できなければならない」とした。  一方で社会全体を見ると、AIに仕事を奪われるのではないかといった脅威論や警戒心が強い。AIとどのように共存していくか、社会の合意はまだできていない。  人と技術の役割分担をどうするか。それを考えることは、人にしかできないことは何か、人の尊厳とは何かを考えることでもある。こうした倫理面についても若いころから学べる機会を増やし、社会的な規範をつくる必要もある。 ´2018/01/14 20:55:28 ¨ ---------- § 大西洋のマグロ管理に学べ 2018/1/16付 大西洋・地中海でマグロ類などの資源管理にあたる国際機関(ICCAT)は、2018年のクロマグロ漁獲枠を2万8200トンと昨年より2割増やした。漁獲管理が奏功し、資源量が回復したためだ。大西洋の成功例を太平洋での資源回復にいかしてもらいたい。  大西洋の漁獲枠の拡大は4年連続で、最も削減された11~12年の2.2倍になる。ICCATは19年、20年も漁獲枠を増やすことで合意し、20年の漁獲枠は3万6千トンまで拡大する。同海域での日本の漁獲枠も増える。  かつては大西洋でも乱獲が止まらず、10年のワシントン条約会議では禁輸措置が提案された。危機感を強めた漁業国は体重30キログラム未満の未成魚を原則禁漁とし、流通過程で漁獲証明書を確認するなどの保護策を打ち出した。  漁獲規制をきちんと守り、流通管理も厳しくすれば資源量は確実に増えることが立証された。  大西洋・地中海域では現在も未成魚の禁漁措置は継続されている。一方、日本近海を含む中西部太平洋の国際機関(WCPFC)の漁獲規制は、未成魚の漁獲量を02~04年の半分に抑えるものだ。それでも、日本などの各国で漁獲枠を超す違反が相次ぎ、政府は漁獲量が枠に近づいた時点で操業停止命令を出す方針だ。  国内の漁業者からは「厳格な漁獲規制は漁業経営への影響が大きい」と不満の声が多い。WCPFCが昨年12月に開いた総会で、資源量に応じて漁獲枠を柔軟に見直す措置で合意した背景には、日本の漁業者の不満の声がある。  しかし、中長期で見れば、厳格な資源管理が漁業経営にもプラスとなることは大西洋の事例で分かるはずだ。資源の回復した大西洋クロマグロの流通量は国内市場でも増え、対照的に太平洋域ではなお漁獲規制が続く。それは漁獲、流通管理の優劣が招いた結果にすぎない。  漁業の持続可能性を高めるために何が重要かを、漁業者は改めて考えてほしい。 ´2018/01/15 23:28:53 ¨ ---------- §転機迎えた住宅市場の構造改革を促せ 2018/1/16付  住宅建設が減っている。住宅着工戸数をみると昨年7月以降、5カ月連続で前年同月を下回った。相続税対策に伴う賃貸住宅の建設ラッシュが落ち着いたことが主因だが、持ち家も減っている。  住宅建設の減少は足元の景気にはマイナスだが、全国で空き家の増加が問題になっている点を考えれば自然な流れだろう。住宅市場は大きな転換期を迎えたといえるのではないか。  今後大切なことは、大きくいえば2つある。まず、空き家の増加を抑えるためにも中古住宅の取引をもっと増やすことだ。それには税制など政策面からリフォーム投資を促し、住宅の質を維持・向上させる必要がある。  住宅投資に占めるリフォーム投資の割合をみると、日本は3割弱と欧州に比べてかなり低い。リフォーム投資が増えれば新築投資の減少を補う効果も期待できる。  第三者である建築士などが建物の状況を調べるインスペクション(住宅診断)も普及させたい。米国などでは住宅診断は一般的だが、日本ではまだ少ない。  宅地建物取引業法の改正で、4月から取引を仲介する業者が顧客に住宅診断をするかどうかを確認することが義務付けられる。住宅の状況を事前に把握できれば、消費者は安心して適正な価格で購入しやすくなるだろう。  住宅金融のあり方も問われる。中古住宅の購入費とリフォーム費用を一体で提供する住宅ローン商品を充実する必要がある。そのためにも、土地とは分けて建物の価値を評価する手法を広げたい。  2番目は都市計画と連動させて、住宅の立地を既存の住宅地にしっかりと誘導することだ。日本では多くの住宅がもともとは住宅地ではなかった工場跡地や農地などに新たに建設されている。  その一方で、既存の住宅地では建て替えが進まないので空き家がますます増えている。住宅着工戸数全体に対する古い物件を壊して建てた住宅の割合を示す「再建築率」をみると、2015年度は8.4%と過去最低になった。  居住者がいる住宅だけをみても、耐震性に欠ける物件が全国に約900万戸もある。こうした物件の除去と一体となった住宅建設を後押しすべきだ。  日本では人口に続いて23年をピークに世帯数も減少に転じる見通しだ。転機を迎えた住宅市場の構造改革をしっかりと進めたい。 ´2018/01/15 23:30:01 ¨ ---------- §賃上げでデフレ脱却への決意を示せ 社説 2018/1/17付  経団連が2018年の春季労使交渉に臨む経営側の指針をまとめた。デフレ脱却を前進させるため、例年になく強く賃上げを呼びかけている。働き方改革で残業代が減る分の補い方などにも企業は目を配り、賃金上昇の流れを確かなものにしてもらいたい。  交渉指針となる経営労働政策特別委員会(経労委)報告は政府の要請を踏まえ、「3%の賃上げ」は社会的な期待であり前向きな検討が望まれると明記した。基本給を引き上げるベースアップや賞与の増額などを想定している。3%は日本経済がデフレに入る前の1994年以来の伸びとなる。  民間の賃金決定への政府介入は市場経済のメカニズムをゆがめかねず、本来なら望ましくない。ただ、企業が抱えるお金が増え続けているのも事実である。上場企業の手元資金は100兆円を上回っている。  18年3月期に上場企業は2年連続で過去最高益となる見通しで、企業が積極的な賃上げを検討できる環境にあるといえる。経済の好循環の鍵を握る消費拡大には将来不安を除く社会保障改革と併せ、継続的な所得の伸びが求められる。収益力が高まった企業は例年以上の賃上げを考えてはどうか。  もちろん賃金は生産性の伸びに応じて決める必要がある。女性や高齢者が働きやすい短時間勤務制度などの生産性向上策についても労使で議論を深めるべきだ。  今春の労使交渉では残業削減による減収をどのように補うかも大事なテーマになる。大和総研の試算では残業時間が月平均60時間を上限に抑えられた場合、残業代は最大で年間8.5兆円減る。  労働組合側は「残業時間の減少は生産性が上がった表れといえ、その分、賃金を上げるのが筋だ」と主張する。生産性の向上がみられるなら、従業員への還元を考えてしかるべきだろう。  経団連は経労委報告で、賞与の増額や手当の新設などの還元方法を挙げた。減収は従業員の働く意欲をそぎかねず、企業にもマイナスだ。適切な対応が求められる。  雇用されている人の7割が働く中小企業の賃上げも重要になる。大企業による著しく低い代金での発注などが中小企業の収益を圧迫している例は少なくない。  下請法違反の取り締まり強化が求められるのはもちろんだが、大企業自身、中小企業に不当な取引を強いていないか点検すべきだ。 ´2018/01/17 20:04:07 ¨ ---------- §外国人の娯楽消費の拡大を 社説 2018/1/17付  2017年の訪日外国人が前年比19.3%増の2869万人になり、過去最高を更新した。それに伴い年間の消費額も17.8%増の4兆4161億円と、初めて4兆円を超えた。しかし1人あたりの消費額は15万3921円にとどまり、2年連続の減少となった。  政府は20年の訪日外国人の人数と消費額について4000万人、8兆円を目標に掲げている。達成するには1人あたりの消費額を20万円に増やす必要がある。  消費が伸び悩めば住民などが経済効果を感じにくくなり、「交通機関が混む」といったマイナス面への不満ばかり膨らむ可能性もある。旅行者の満足度を高め、消費の開拓につなげるべきだ。  経済協力開発機構(OECD)が16年に公表した国際比較によれば、米国、カナダ、フランス、ドイツを訪れた外国人観光客の消費のうち、8%から10%を文化鑑賞や野外活動など「娯楽サービス」への支出が占める。日本の場合は1%台だ。伸びしろは大きい。  外国人観光客が日本の音楽公演やスポーツの試合を見ようとする場合、チケットの買いにくさが壁になる。電子チケットを導入し、海外からネット予約できるようにすれば、コンビニエンスストアなどでの発券手続きが不要になる。来日後、チケットを簡単に購入できる販売店の充実も望まれる。  演劇などの鑑賞時に電子端末を貸し出し、多言語の翻訳字幕を表示するといった方法もある。さまざまな場面でIT(情報技術)を最大限に活用すべきだ。  国立公園や神社、城など、自然や文化財の活用法も工夫したい。米欧の観光先進国には元ガスタンクや修道院など、産業遺産や歴史的建築をホテルや商業施設に転用し人気を集めている例は多い。  これまで手薄だった富裕層向けの施設やサービスの充実、知名度が低い地方の祭りに関する情報発信、深夜時間帯の公共交通の整備など、工夫の余地はたくさんある。慣習や前例にとらわれず、柔軟な発想で取り組みたい。 ´2018/01/17 20:05:50 ¨ ---------- §ベンチャーと連携して経営革新を急ごう 大手企業が技術革新や事業モデルの転換に向けてベンチャー企業と連携する動きが目立ってきた。人工知能(AI)の発達、シェア経済の普及といった事業環境の変化が急速に進み、必要な技術や人材の幅が広がっているためだ。 こうした動きは起業が盛んな米国で先行してきたが、ここにきて日本でも関心を示す企業が増えている。大手とベンチャーの連携を一段と加速することで、産業の競争力を高めていきたい。 今月12日まで開いた米家電見本市「CES」の出展企業は3900社を超え、5年前に比べて2割近く増えた。大手とベンチャーの「顔合わせ」の場としての色彩が強まり、ベンチャーの参加が活発になっている。 日本でも大手企業がベンチャーとの関係を強めつつある。M&A(合併・買収)仲介のレコフによると、大手が設けたファンドによる国内外のベンチャーへの出資は2017年に681億円となり、過去最高を更新した。 ベンチャーはリスクの高いテーマに取り組めるほか、スピード感をもって事業を進められる利点がある。米国ではIT(情報技術)に加えて医薬、金融といった分野でもベンチャーと組む動きが一般的になっている。日本企業も出資や事業提携を増やすべきだ。 連携を成功させるには課題がある。ひとつは、ベンチャーと組む目的を明確にすることだ。まず自社の強みと弱みを冷静に見きわめ、弱点を補う形でベンチャーと連携するのが望ましい。流行だからといって組むようなことがあれば、成果をあげるのは難しい。 米ゼネラル・モーターズ(GM)は先週、ハンドルのない自動運転車を19年に実用化すると発表した。買収したベンチャーの自動運転技術と自らの生産能力などを組み合わせた例で、参考になる。 ベンチャーと連携するため大手が社内の体制を整えることも重要だ。ベンチャーの経営者から「大手企業は担当者がころころ変わる」といった不満の声を聞くことは少なくない。責任者を明確にし、腰を据えて取り組むべきだ。 ベンチャーが十分に力を発揮できる環境を整えることも欠かせない。下請け企業との取引が長い日本の大手は、規模が小さく歴史の浅い企業を下に見る傾向がある。対等の関係を築いて双方が活発に知恵を出し合うことは、連携を成功させる条件となる。 2018/01/18 09:11:19 ¨ ---------- § 米株安は適温経済の転機か 社説 2018/2/4付  上昇が続いていた米株式相場に変調の兆しが出ている。2日には米ダウ工業株30種平均が前日比665ドル安の2万5520ドルと、9年2カ月ぶりの大きな下落幅を記録した。米大統領の政策に期待する「トランプ相場」の中では最大の下げだ。  株価急落の直接のきっかけは、1月の米雇用統計で民間部門の平均時給が前年同月比2.9%上昇し、約8年半ぶりの高水準となったことだ。  賃金上昇が物価を押し上げ、米連邦準備理事会(FRB)が利上げを加速させるとの観測が広がった。このため投資家が米国債の売却を急ぎ、長期金利が上昇、利回りの面で投資魅力が見劣りすると懸念された株式が幅広く売られたという構図だ。  米国経済は緩やかな成長が続く一方、低インフレでFRBが引き締めを急がない「ゴルディロックス(適温)」の状態にあるとされてきた。適温経済の中で投資家がリスクをとる姿勢を強め、一部では業績に照らして割高感もあった株式に資金をふり向けた。  米株価の急落は、そうした適温経済が転機を迎えているのではないか、との懸念を映していると見ることができる。日本を含むアジアや欧州の市場にも影響が及ぶ可能性もある。  新興国の企業などが過剰な債務を抱えている例も少なくない。米金利の上昇をきっかけに世界の金融市場が混乱すれば、実体経済に悪影響が及びかねない。  パウエルFRB新議長は市場のメッセージを丁寧に読み、世界への影響も考えて金融政策を運営すべきだ。米欧アジアの企業はグローバルな資金の流れに目を凝らし、投資などの戦略を柔軟に見直すことも必要になる。  米金利上昇の背景にあるのは、景気の拡大だ。米景気の拡大は欧州やアジア企業の業績も押し上げ、株価を下支えする要因と考えられる。短期的な株価の乱高下に萎縮せず、長期の視点に立つことが欠かせない。 ´2018/02/05 23:19:02 ¨ ---------- §農漁村を新たな観光資源に 社説 2018/2/11付  農家や漁業者が宿泊施設を経営する動きが増えてきた。国内外の観光客に農山村の風景や、伝統的な料理を楽しんでもらうことは高い付加価値を生む。農林水産省や観光庁、自治体が協力し、農家の自立や地域の活性化につなげてほしい。  欧州などでは農家やワイン製造所が宿泊施設を経営し、観光客の長期滞在につなげるアグリツーリズムが定着している。しかし、これまで日本の農漁業政策は食料自給率の向上に重点を置き、観光サービス業の展開はイチゴ狩りなど一部にとどまっていた。  農村などの風景や暮らしは、訪日外国人旅行者にとって埋もれた観光資源だ。2016年の観光庁の調べでは、訪日旅行者のうち農漁村などを体験した比率は1割に満たない。もっと活用すべきだ。  兵庫県篠山市では地域活性化の目的で農家が法人組織「集落丸山」を立ち上げ、空いた古民家を改修し、1棟貸しで旅行者に提供している。1人1泊あたりの単価は1万~4万円台と安くはないが、年間600~800人ほどの顧客を集めている。  宿泊予約サイトを運営する一休によれば、集落丸山のような農山村の宿泊施設は空き家対策も兼ねて各地に誕生している。顧客は昔ながらの民家に滞在し、仲間や家族で囲炉裏を囲んでの食事などに従来の宿泊施設にはない価値を見いだしているという。  政府は訪日旅行者の拡大策として、農村などを楽しんでもらう「農泊」施設を20年までに全国500地域で展開したい考えだ。農林水産省は農泊事業への補助金支援も17年度から始めた。  だが、補助金より重要なのは農泊施設の情報を集め、ノウハウを持つ民間企業にも参入してもらい、内外の観光客の要望と結び付けることだ。現状では全国にどのくらいの農泊施設があるのか、十分に把握できていない。  農業の条件が不利な山間部などで農泊事業をうまくいかせるように、知恵を絞ってほしい。 ´2018/02/10 23:18:29 ¨ ---------- §企業は市場との対話進め株安への耐性を 社説 2018/2/11付  上場企業の業績が拡大している。これまでの本紙集計によれば、最終的なもうけを示す2018年3月期の純利益は前期に比べて20%余り増え、2年連続で過去最高となる見通しだ。年度初めに公表した利益の見通しを、上方修正する例も相次いでいる。  好調な企業業績にもかかわらず、株式相場は米国の金利上昇などをきっかけに乱高下が続いている。こんな時だからこそ、企業は業績や企業戦略、豊富な手元資金の生かし方などを市場に積極的に発信し、投資資金を引きつける努力をいっそう強めるべきだ。  今期は世界景気の回復を映して、幅広い業種で収益が拡大している。あらゆるモノがネットにつながる「IoT」を使った生産効率化の追い風を受ける企業も多い。省力化のための産業用ロボットの需要拡大で純利益の見通しを従来より9%ほど引き上げたファナックは典型例の一つだ。  好業績を背景として、企業の情報発信の仕方や中身も変わってきた。中期の事業戦略やビジョンの説明に時間が割かれるようになったのが特徴だ。  4~12月期に16%増益だった日本電産の永守重信会長兼社長は決算発表の場で、自動車やロボットなどの分野で自社の主力であるモーターの需要が急拡大する予想を丁寧に説明した。今期に2年ぶりの最高益を見込むトヨタ自動車は、技能者の育成など決算には直接関係なさそうな事項の説明に多くの時間を割いた。  中期の需要予測や戦略説明には、長期保有の株主を増やす狙いがある。長期株主の多い企業は短期の株価変動が相対的に小さくなり、経営者がじっくりと投資や財務の戦略を進めやすくなるとされているからだ。  カゴメ(12月期決算)のように初めて個人向けの決算説明会を実施した企業もある。投資家向け広報(IR)に工夫を凝らすことも、株式の長期保有を促すうえで有効な手だてだ。  株主の関心は、企業が抱える100兆円余りの手元資金の使い道にも向けられている。賃上げや投資を通じて経済を活性化させることは、企業の成長基盤を強くし、株主の利益にもかなう。  足元の株価下落はコンピューターの自動取引で増幅されている面が大きい。企業は市場との対話を通じて、株価変動への耐性を高める必要がある。 ´2018/02/11 19:10:30 ¨ ----------